エラーに成功の種
生物の進化はエラーによって起こるという。遺伝子を写す時に突然変異、すなわちコピーの失敗が起き、いくつものエラーの中で環境に適合したものが残ってきたのだと説明される◆この話を二つの取材先で聞いた。いずれも若い起業家で、失敗したと思ったものの中に企画のヒントが潜んでいるから、失敗こそ大事だという趣旨だった◆以前も失敗を大切にするという考えはあったが、原因を見極め再発を防ぐことが狙いだった。近年広まっているのは、エラーそのものに価値があるという見方だ。確かに失敗は意図してするものでないだけに、普通に考えたのでは思いも寄らないことが起こる。それは見方を変えれば、斬新なアイデアということになる◆とかく人は失敗を隠したがり、ごまかそうとしたりもする。しかし失敗に価値があると思えば、行動が変わってくるだろう。他人の失敗を責めなくて済むから、組織の風通しも良くなるかもしれない。若い起業家は、失敗できる環境をつくった会社が伸びている、とも話してくれた◆仏教では八正道の筆頭に「正見」が掲げられる。失敗はダメという思い込みをなくし、ありのままに見るようにとの教えとも受け取れる。エラーの中から成功の種を見つけ出すには、才能でなく訓練が必要だという。物事を正しく見られる目を持てるよう努力を続けていきたいと思う。(有吉英治)