隗より始めよ
中国戦国時代、燕の昭王は人に問うた。隣国・斉との戦いで衰微した我が国を立て直すには、有為の人が要る。どうすればそのような人物が得られるか。人は答えて言った。「まずは私を厚く遇することでしょう」。自分のような愚なる者を礼遇する昭王なればこそ、と智者がこぞって集まってくることでしょう◆その人の名は郭隗といい、この故事は格言「まず隗より始めよ」の由来となった。郭隗はまた昭王に「死馬の骨を買う」話を語って聞かせた◆日に千里を走る名馬を買い求めてこいと遣わされた者が、死んだ駿馬の骨を買って帰ってきた。君主は激しく怒った。郭隗は言う。死馬の骨に金を払ったからといって、腹を立ててはなりません。死馬の骨に大枚を叩く王の下ならばと、駿馬の方からはせ参じてくるに違いありません◆いずれの故事も、大事を成すには身近な小事から始めるべしとの意味で用いられる。転じて、言い出した者から実践せよといった意で使われることも多い◆自民党の新総裁が、あさって27日に決まる。過去最多の9人が立候補する異例の総裁選となる中、肝心の政策論争はどうだったか。孔子の言う「巧言令色、鮮なし仁」というようなことはなかっただろうか。先に選出された立憲民主党の新代表もしかり。国政政党のトップに期待されるのは美辞麗句でも甘言蜜語でもない。「まず隗より」の実行力だろう。(三輪万明)