限界集落の寺を再生 手作り劇で交流拠点に
福井市 浄土真宗本願寺派光照寺 上田慧恭住職

民家が1軒のみ残る山間集落の福井市赤坂町。この地に古来たたずむ浄土真宗本願寺派光照寺は一時廃寺も検討されたが2006年に住職を引き受けた上田慧恭さん(78)の始めた寸劇などユニークな活動が評判を呼び、人々が楽しく集える拠点として再生しつつある。
赤坂町は日本海側の丹生山地にある。海沿いを走る国道305号から山側に枝分かれした林道を車で10分ほど駆け上がると、日だまりのような集落に突き当たる。日本海も望める風光明媚な土地だ。いつもは静まり返った集落だが、同寺で8月に営まれる報恩講には多いときで60人も集まる。門徒は集落外にも約20軒あるが、門徒以外に海岸一帯にある他寺の門信徒たちも参拝する。
住職就任の翌年から寺の寸劇グループ「コール頻伽」を立ち上げ。現在メンバーは16人で、法要の後に「大人の学芸会」と称して、シナリオから演出まで手作りの劇を披露する。日本舞踊、ファッションショーなども催し、評判を聞き付けた各地の公民館から開催依頼が来るまでになった。
メンバーの多くは上田住職が他寺で仏教讃歌を教えていた縁で知り合った人たちだ。メンバーの木下豊子さん(80)=同県鯖江市在住=は「仏教讃歌を歌っていると感動して涙が出るときもある。楽しいからずっと続けている」と笑顔で話す。
上田住職は福井県内の真宗出雲路派の寺で生まれ育ったが、結婚後は在家で生活。ただ、根底には真宗の教えが生き続け、1993年に本願寺派僧侶養成機関の中央仏教学院通信教育部を受講し、翌年に得度。さらに住職要件である教師資格も取得した。
光照寺は姉の嫁ぎ先だったが後継者がおらず、門徒総代が白羽の矢を立てたのが上田住職だった。就任後は鯖江市の自宅から車で1時間かけて同寺に通う。当初は集落に残る門徒は3軒6人で、いずれも年齢は70代。傷みが激しかった本堂を門徒と協力して修繕するうち「今日まで寺を守ってこられた門徒さんにスポットライトを当てたい」との思いが生まれ、寸劇を始めるきっかけになった。「一人でも賛同してくれる人を増やしたい」と上田住職。昨年からは光照寺の門徒を連れて、他寺の報恩講などへの参拝も始めた。
今後は寺の周囲に花木などを植え、集落にあるキャンプ場と連動した活動にも取り組む考え。「私で25代続いてきた寺。たやすくつぶれるとは思っていない」
(岩本浩太郎)