経験生かしカホン製作 一流の演奏家が愛用
京都市東山区 臨済宗東福寺派盛光院 石原守宏住職

音楽のバンドのステージで、ドラムに代わる楽器としてポピュラーになってきた箱型の打楽器「カホン」。大手楽器メーカー製など様々なブランドのものが流通する中、国内外の一流ミュージシャンが愛用するカホンが京都の寺院で作られている。臨済宗東福寺派大本山東福寺(京都市東山区)の塔頭盛光院の石原守宏住職(68)が手作りする「遼天カホン」だ。
「遼天」は道号で、寺の一室に「遼天CAJON工房」を構える。本山の法務部長(執事)を務め、日中は多忙を極めているため、作業は夜に一人で行っている。
石原住職がカホンと出合ったのは今から18年前のこと。偶然、路上ライブで演奏されているのを見て興味を持ち、インターネットの情報を頼りに試行錯誤しながら作ってみた。知り合ったギニア出身のパーカッショニストに試奏してもらったところ「良いものなので売るべきだ」と勧められ、販売を開始した。
「かつて高級カーオーディオ機器の会社を経営していたことが役に立ちました。木工が得意でしたし、特にスピーカーの音響に関する知識や技術をカホン作りに生かすことで、よく響くいい音色のカホンを作ることができていたようです」と当時を振り返る。
口コミで広がり、今ではコブクロ、スキマスイッチ、サザンオールスターズの桑田佳祐のバックミュージシャンが使っている。米国ボストンでも販売され、海外の有名パーカッショニストが多数愛用している。
人気の理由は品質と音の良さ。ほかの多くのカホンが手でたたく表面の響きだけに重点を置いているのに比べ、石原住職の作るカホンは、ギターのボディーに使われているブレイシングの技術を取り入れ、箱全体を振動させて響かせる。木材もギターと同じものを採用、仏壇店を通して黒檀を入手することもある。
見栄えにもこだわり、約30種類のカンナを使って本体を仕上げ、木目を生かした丁寧な塗装を行い、寄せ木細工の装飾まで自分で施している。楽器の底には「飛天」「菩薩」などの仏教に関連した銘が揮毫されている。
コロナ禍でミュージシャンたちのライブ活動が自粛され、演奏者あっての楽器作りとの思いが強い石原住職は、春から製造を一時休止している。「終息したらまた多くの人に使ってもらいたいですね。楽器は生き物ですから、生命を吹き込み、本当の音を引き出してくれればありがたいです」
(河合清治)