子が鳴らす鐘 響き渡る 梵鐘が取り持つご縁
佐賀県唐津市 浄土真宗本願寺派萬德寺 早間文城住職

佐賀県唐津市山本地区は夕暮れ時になると決まって鐘の音が鳴り響く。浄土真宗本願寺派萬德寺の鐘で、撞いているのは地域の子どもたちだ。
早間文城住職(64)の呼び掛けで1年半ほど前に始まった。きっかけは寺の門徒で元衆議院議員の保利耕輔氏から梵鐘の寄進を受けたことだった。
鐘堂は、耕輔氏の父で元衆議院議長や佐藤内閣の官房長官などを務めた茂氏夫妻の墓があった場所に立つ。耕輔氏が東京の自宅からお参りしやすい築地本願寺(東京都中央区)への分骨を望み、墓の跡に鐘堂を建てることを申し出たからだ。
鐘堂の建設は26歳で住職を継いだ早間住職の念願だった。しかし本堂の修復なども必要で、鐘堂を建てる余裕はなかった。除夜の鐘を本堂備え付けの喚鐘で鳴らしているのを見かねた門徒が「俺が梵鐘を寄進してやろう」と言ってくれたが、あまりに高額な資金が必要と聞いて、ただただ驚くほかなかった。
「念願だった鐘堂をただのお飾りにはしたくなかった」。夏は午後6時、冬は同5時に帰宅を促すチャイムが鳴るのに合わせて鐘を撞いてもらうよう呼び掛けたところ、毎日数人の小学生らが訪れるようになった。
子どもたちはまず鐘堂の前で一礼、合掌してから鐘を撞き、終わったら再び合掌して礼をする。焼香と同じ作法だ。早間住職は「鐘撞きに参加している子どもが、おじいちゃんやおばあちゃんに焼香の作法を教えることもありますよ」と言ってほほ笑む。
最初は鐘が鳴ることに苦情が来ないかと心配したが、子どもたちが楽しんで撞く様子に地域の人たちも温かなまなざしを向ける。「早めに来て遊ぶ子、境内の掃除をしてくれる子もいます。みんな純粋に楽しみながらお寺と関わりを持ってくれています」。家庭の問題など悩みを打ち明ける子もいるという。子どもたちにとってお寺を安心できる居場所にしたいとの思いから、子どものいい面を見つけてたくさん褒めるよう心掛けている。
「この取り組みは子どもたちが将来大きくなった時にお寺に戻ってくる種まきです」と早間住職。鐘撞きに来る小学生が思春期になってお寺から離れても、一度築いた縁は後々生きてくるとの思いがある。「梵鐘をきっかけに子どもたちが親鸞聖人のおみのりを聴く人に育ってくれればうれしい」
(岩本浩太郎)