聴聞の場、年間150日 「土徳」育んだ地に集う
富山県小矢部市 真宗大谷派称名寺

「真宗王国」と称される北陸地方には現在も門徒の自治組織「講」の伝統が息づく。富山県小矢部市の真宗大谷派称名寺では、地元の門徒約200人でつくる「親鸞講」が年間約120日、法座を主催している。
親鸞講の法座は毎年3~5月と9月の計4カ月間に「常設布教」の名称で開かれる。期間中は毎日、午前・午後の2座の法座があり、法話の講師は1人当たり5日間計10座に登壇するのが基本。講師の選定や依頼は称名寺が行っている。
講は檀家の単位とは異なる同信同行のつながりで、1960年発足の親鸞講の講員も称名寺の門徒だけでなく、他寺院の門徒や浄土真宗本願寺派の門徒らで構成される。
称名寺では親鸞講の法座のほかに、寺主催の法要も加えると年間150日ほど聴聞の場が開かれている。1座当たりの参拝者は十数人ほどだが、年間の延べ人数では3千人に及ぶ計算になる。真宗は聞法を最重要とする宗旨とはいえ、これだけの法座が開かれる一般寺院は稀有といっていい。
立島秀哲副住職(46)によれば、講員の高齢化などで講の活動は衰退しつつあり、近隣地域での常設の法座は称名寺や大谷派城端別院(富山県南砺市)の常例布教など一部を残すだけになった。ただ、公民館や民家で法座を開く講もある。
立島副住職は福岡県の一般家庭出身で、高校時代に『歎異抄』に出遇ったのをきっかけに大谷派で得度。同派の僧侶養成機関・大谷専修学院などに奉職した後、結婚を機に2016年、称名寺に入寺した。節談説教の活動で知られる。
称名寺がある富山県西部地方は真宗信仰にちなむ独自の文化的風土である「土徳」が育まれた地とされ、民芸運動の創始者で同地方にゆかりのある柳宗悦の思想形成にも影響を与えた。
立島副住職は「公民館での法座に行くと、お内仏や村の人の法名軸があって驚かされることもある」と話し、「講の人々は聞法だけでなく、先祖のことなどいろいろな思いを持って法座に集う。そこには法話の内容を合理的に理解して聞くという姿勢にはとどまらないものがあり、土徳を感じさせられる。そういう環境の中で学ばせていただいている」と言う。
コロナ禍でここ2年ほど常設布教は中止を余儀なくされているが、「今まで自分が聞いてきたことは何だったのか」をじっくりと自問しながら法座が再開される日に備えている。
(池田圭)