ウクライナ支援に奔走 忘己利他、人財育てる
長野県高森町・天台宗隣政寺 壬生照玄副住職

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、天台宗隣政寺(長野県高森町)副住職の壬生照玄氏(52)は、高森町長としてウクライナ支援に奔走している。外務省や法務省出入国在留管理庁、ポーランドの日本大使館などに掛け合い、ウクライナからの避難民9人を高森町に受け入れた。
避難者は3歳から40代までの4家族で母親3人と子ども6人。ポーランド経由で1日未明、高森町に到着した。
子どもたちは空手道禅道会ウクライナ支部に所属。壬生氏は「本当に困っている人への支援を行いたいと考え、受け入れを決めた」という。禅道会を通じて募った避難希望者は当初29人いたが、戦闘激化に伴い消息のつかめない人が増え、9人になった。
戦争の長期化が予想されるため、町では4世帯分の町営住宅を提供し、就業支援もしていく。壬生氏は「高森町で生活の基盤ができれば自立していくことが可能になる」と述べる。
町役場は、特産品の市田柿などを海外に情報発信する仕事でフランス人女性を3月まで職員として雇用していた例もあり、外国人受け入れの素地はできている。
壬生氏は町長としても宗教者としても「戦争での人殺しはNOと訴えていかねばならない」とした上で「宗教観は政治には出せないが、地域の人同士で協力していくことや、困っている人を見たら助けようとか、家族やご先祖を大切にしようということを伝える必要がある」と指摘する。
座右の銘は宗祖伝教大師の「忘己利他」。「自分を忘れることはできないが、他人に尽くすことはできる。地域の人のために社会貢献できる『人財育成』を町長のマニフェストにも掲げた」と強調する。
例えば地域の課題を小中学生が話し合って解決方法を町長に提案し、町職員も関わりながら具体化を目指す「みらい懇談会」を行っているほか、社会人学校「信州たかもり熱中小学校」を開いて県内各地の参加者と共に「7歳の目」で世界を見て、人として取るべき行動を考える取り組みを2018年に始めた。
天台宗法人部長などを務めた父の壬生照道住職(83)からは「人としての付き合い方や腹を割って話すことの大切さを教えてもらった」と感謝している。「人財を育てることで田舎から人がいなくなることをなくす」と意気込み「楽しく暮らせる地域づくりを目指していく」と訴えている。
(須藤久貴)