ドイツで坐禅指導17年 世界向け禅の教え発信
滋賀県東近江市 臨済宗妙心寺派長楽寺 岸田宣昭住職
滋賀の田園風景の中にある長楽寺(滋賀県東近江市)には、時折ドイツ人の姿が見られる。岸田宣昭住職(62)がドイツ・デュッセルドルフの惠光日本文化センターで坐禅指導した縁で、同寺を訪れる人がいるからだ。
岸田住職はかつてドイツに留学し、哲学を学んだ。神学生が暮らす修道院で生活した経験もあり、1989年のベルリンの壁崩壊も修道院で迎えた。「世間は大騒ぎだったが、世俗を離れた修道院は静かだった」と当時を懐かしむ。
ドイツ語と現地文化への理解を評価され、惠光センターでの坐禅指導を依頼された。以来17年間、コロナ禍中の中断を除きドイツを年2回訪れる。
現地では坐禅や質疑応答、精進料理の斎座などを本格的に行う。数息観は「アインス、ツヴァイ……」とドイツ語で数を唱える。医師やエンジニア、大学教授ら専門職が「心を落ち着けたい」と多く参加し、満足げな表情で帰っていくという。
花園大で宗教部に所属し、学生を指導した経験もある岸田住職は、ドイツ人について「非常に熱心」と評する。禅を言葉で理解しようとする傾向が強く「悟りとは何か」「無になるとはどういうことか」など、本質的な質問が相次ぐ。「対話を通じて、自分自身が気付かされることも多い」と話す。
一方、文化の違いに戸惑うこともある。例えばトイレ掃除は社会的地位の高い人がするものではないとして拒否感を示す人もいた。岸田住職は「偏見から自由になるための修行」と説き、理解を得た。また「静かに」と呼び掛けるだけでは伝わらなかった際には、自らの体験をドイツ語で語ることで共感を得られたという。
印象に残る参加者として挙げるのが、ハインリッヒ・ハイネ大の言語学者で、京都大でも教壇に立った故フォルカー・ベー教授だ。「謙虚で日本的な霊性を重んじる方だった」と振り返る。
現在、惠光センターの坐禅会は毎回予約で定員が埋まる。継続参加の人も多く、長楽寺で得度する人もいる。
盤珪禅師を敬愛するという岸田住職は、その教えや哲学をインターネットの投稿プラットフォーム「note」や「ユーチューブ」で発信している。今後はドイツ向けの動画制作にも取り組む予定で、世界に禅を伝える挑戦は今後も続く。
(田代文成)







