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ハンセン病療養所① 偏見まん延、過酷な強制隔離

光明園居住棟の長い廊下はひっそり静まり返る 光明園居住棟の長い廊下はひっそり静まり返る

「何がつらかったって? ここへ来たことが一番の苦しみです」。すかさず返された言葉が胸に突き刺さった。8歳の時にハンセン病との診断を受け、国の誤った隔離政策と社会の偏見によって故郷を追われて国立療養所邑久光明園(岡山県瀬戸内市)に強制収容されてから七十余年、人生のほとんどをここで過ごした山口淑子さん=仮名(80)=の顔には深いしわが刻まれている。「ちょっと病院に入る」と言われながら、荷物の行李に通学ランドセルがあるのを不審に思った少女は親戚に「もう戻れないよ」と教えられた。父に付き添われて入園し、帰りたくて泣き暮らした日々がよみがえる。

この国のハンセン病対策は差別と抑圧の歴史だ。実際には感染力は非常に弱いにもかかわらず、間違った知識と表皮の変形などの後遺症から「恐ろしい伝染病」との偏見がまん延し、20世紀初頭から戦後の90年代まで法による過酷な強制隔離が続いた。何万人もの患者が「病院」の形を取った施設に収容されて人生を奪われ、特効薬の開発で制圧できるようになっても隔離は続いた。法廃止後の現在、全国13カ所の国立療養所に暮らす人たちは全員完治しているが、高齢化で在所のまま死亡によって人数は減り続け、計2千人足らず。瀬戸内海の小島にある光明園で暮らす100人余りの元患者も平均年齢は85歳ほど、在所平均年数は60年近い。

園入り口にある病院棟の奥の広々とした敷地に入所者の居住棟や売店、浴場などが並ぶ。四つのブロックに分かれた住宅には「夕顔」「松風」といった名前が付き、「生駒」「六甲」と去った故郷を思う名称もある。くし状に連なる居室を結ぶ何十メートルもの長い廊下のあちこちに据えたスピーカーから「恋は水色」のメロディーが流れるのは、昔使われた鈴のように後遺症で目が不自由な人への合図。だが入所者の多くは息を潜めるように自室にこもり、看護師や食事配給の職員が時折通るくらいでひっそり静まり返っている。

毎月、療養所に交流に通う神戸市兵庫区・真宗大谷派西林寺の中杉隆法副住職(47)と訪ねた時、部屋で昼食を済ませた淑子さんは仏壇に手を合わせていた。入園のきっかけは、家で菓子を焼いていて分からずに火に触れ、やけどしたこと。末梢神経まひの患者は高熱が分からない。診察した医者が「癩病だ」と保健所に通報して家族全員が調べられ、母と2人で収容された。母子は引き離され、最年少で子供舎に入った淑子さんは誰も会いに来ない孤独に絶望する。

年長の女子がかわいがってくれて少し落ち着いても、生活は苦しかった。治療も行われず、戦後の食糧難で食事もひどかった。軽症で現金支給のない人は、自分の配給食の卵を売って小遣いにしていたという。小学校も教科書がなく授業は中断。消毒液で印刷がにじんだ少女雑誌で恋愛やおしゃれの記事を見ては、持参した服で「着たきりすずめの自分が哀れになって」涙が止まらなかった。

先輩が病院払い下げの白衣を直してワンピースを作ってくれたのがうれしい思い出だ。外部から教師が来る園内の中学を卒業する頃も薬が不足して治療はまれだったが、症状は軽快した。淑子さんは小さな子らの髪を三つ編みにするといった世話や所内のミシン作業場で背広を縫うなどの仕事をするようになる。だが、募る悲しみに「若い頃は自分が消えてしまいたい、消してほしいとばかり思っていました」と振り返る。

(北村敏泰)

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