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ハンセン病療養所② 男性は断種、女性に中絶強制

入所者が入れられた監禁室は監獄そのもの(光明園で) 入所者が入れられた監禁室は監獄そのもの(光明園で)

国立療養所邑久光明園で暮らす山口淑子さん=仮名(80)=が中学生の頃だ。園内施設の掃除に従事していたある日、医学研究棟の普段は立ち入り禁止の部屋のドアが開いていたので友人と二人で入ると、標本棚に並ぶガラス容器にホルマリン漬けにされた物が目に飛び込んだ。白っぽいそれが、体を丸めた赤ん坊や胎児の死体だと気付いた淑子さんは「何これ!」と声を上げた。数十人分あり、「ぞっとして体から血の気がうせました」。この体験が淑子さんに「ここでは子供を産んではいけないんだ」と強く思い込ませたという。

園内で軽作業をして働いていた淑子さんは23歳で、5歳年上の男性入所者と結婚した。式も挙げられず、夫婦棟に転居して知人らで巻き寿司とお茶で祝うだけ。「せめて子供が欲しくてたまらなかった」が断念した。母親がハンセン病なら子がどんな思いをするか身をもって知っていた。「『こんなことなら生まれてこない方が良かった』と思うでしょう」。周りも諦めた人がほとんどで、妊娠してしまった人は「2、3人ためておいて医師が一度に中絶したと聞きました」。

ハンセン病の歴史は差別そのものだ。男性の断種手術、妊娠した女性の強制中絶が当然のように行われ、堕胎されて泣き声を上げる胎児を医師がバケツの水につけて抹殺したとの証言もある。そのようにして摘出された赤ん坊が病理研究用の「標本」として各地の療養所に保存された。強制隔離を定めた「癩予防法」制定の1931年以前から断種は行われ、戦後の48年には特効薬の導入で治癒可能になったのに優生保護法の対象にされたことで強制手術が合法化された。同法は障がい者への手術強要も大問題になっている。様々な人権侵害に園内の患者は抗議活動もしたが抑圧され、反抗的と見られれば監禁された。居住区域から遠く離れた森の外れに残る平屋の狭い監禁棟は、重い鉄扉内の幅約1メートルの通路に面して木の格子戸が付いた2メートル四方ほどの独房が4室並ぶ。園の資料によると当時、食事も握り飯2個と水が日に1回だけだった。小さな鉄格子窓の明かりに浮かぶ、冷たくざらついたコンクリート壁の引っかき傷に入所者の苦悩の叫びが染み付いているようだ。

いつまでも園から出ることを許されない生活は淑子さんと共に入所させられた母親や家族との絆も引き裂いた。「ここにおれば食べられる」と諭されても「貧乏でも家に帰りたい」と何年も苦しみ続けた淑子さんは、隣接する長島愛生園に設けられた全国唯一の療養所内高校に入る試験を受けた。「隣の園でも、今の所から出られるだけでもまし」と望んだのだが、目も不自由になった母親は「出て行ったら帰らないのではないか」と泣いて反対し怒った。その病身の母親を、淑子さんの故郷の兄弟たちは偏見にさらされたことで恨んでいた。家族に見放された母親は園内で再婚し、卒業後に光明園に戻った娘とも交流しながら50年暮らしたが、認知症を患い精神も病んで亡くなった。相次いで旅立った義父ともども「帰りたい」が口癖だった。

生きることに苦しみ抜いて「殺してえな!」と娘によく訴えた母親の姿に、淑子さんは自分の生涯を重ねた。夫もがんで亡くし孤独にさいなまれる。「兄弟さえ家族と思えない。何のために生きているのか」。今も眠りにつくとき「悲しい人生だったなあ」と涙が止まらなくなる、そんな心の支えは自分なりの信仰だ。

(北村敏泰)

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