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ハンセン病療養所③ 魂の叫び「せめて死後は自由に」

邑久光明園の山口淑子さん=仮名(80)=は実家が真宗門徒で、入所して何年かたつと園内の寺院の掃除当番や朝の参拝に通うようになった。今も朝夕の合掌を怠らない。「それほど熱心とは思いませんが、通ってくれるお坊さんの話を聞くと、この世に生まれ、今こうして生きていることはありがたいと思えます」。強制された限られた場だからこそ「ここで生かされていることに意味がある」。そう感じると言い、晩年に目が見えなくなってもお茶を入れてくれた母親が「つらさも生きる力も、人生とは何かをその体で教えてくれました」と話す。自分を残して去った母と義父、そして夫芳蔵さんが安らかにいてほしいと願う読経や念仏が、園での孤独の苦しさを支えてくれる。

自らが往く日もそう遠くはない、そう考えると「死んでまでここにいたくない」と切望する気持ちが湧き上がるという。ハンセン病療養所で長年暮らす人たちは亡くなって遺骨になっても、多くが園内の納骨堂に入る。それは今なお根強い偏見のためだ。淑子さんも入所の際、「前世に悪い事をしたから病気になった」と言われた。現在も、骨でさえ故郷に帰ると、「あの家は……」と周囲の噂になり親族が白眼視されるため、ほとんど引き取り手がないという。「せっかく皆が忘れかけていたのに、今さら戻られても」という故人の親族の声を聞いた人もいる。園の納骨堂に眠っていても、家族が参りに来るのがはばかられる。差別が生み出す無縁。「せめて死んでからは自由になりたい」と繰り返す淑子さんの言葉は魂の叫びだ。

入所者の大多数は何らかの宗教を持ち、それぞれの宗派の会に所属している。淑子さんもそうだったが、癩予防法の時代は園に収容される時に宗旨を尋ねられ、特にない場合は選ぶよう言われた。だがこれは信仰の自由の保障などではなく、死亡時の葬儀のための登録だった。園に入所者との交流支援に通う真宗大谷派西林寺の中杉隆法副住職は「あなたは生きてはここから出られないよ、という宣告だったのです」と説明する。宗教が、現実の苦難からの解放ではなく、死後の安心を保証することによって目前の生活を我慢するように仕向けることになってはいないか。ハンセン病問題に取り組む宗教者からは、それが国家による患者強制隔離政策を宗教が支えていたことになるのではないかという自省を込めた指摘もある。

母親らを弔い、自らも入るための墓地を探していた淑子さんは数年前、京都市内の尼寺にある「樹木葬墓」にたどり着いた。山の中腹の墓苑最上部に植えられたソメイヨシノの根元に並ぶ30センチ四方の黒御影石のプレート。その下に遺骨を土に還る状態で埋める。2区画を求め、母夫婦の墓石には「陽・風」と母親が好きだった明るい言葉を、夫と自分の墓石には「自然界へ永遠に」そして「感謝」と刻んだ。毎年、盆や彼岸など何度も参拝に行く。友人と訪れて談笑しながら墓石を磨くのも楽しみだ。

この1月末、淑子さんは初めて一人で参った。度々通ううちに、なぜか懐かしい場所になった。白い息を吐きながら長い坂道を自分の足で上り、生きていることを実感する。花を手向けて手を合わせ、「ここで皆ゆっくり眠っている。いずれ私も」。そう思うとうれしさが込み上げた。振り向くと、眼下の遠くに洛中の凍てつく冬景色が広がっていた。

(北村敏泰)

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