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ハンセン病療養所⑥ 隔離の現実見て、お前はどうする

「人間回復の橋」は渡る車も多くない 「人間回復の橋」は渡る車も多くない

神戸市兵庫区、西林寺の中杉隆法副住職がハンセン病療養所入所者の交流支援に取り組み始めたのは大学卒業直前、1995年の阪神・淡路大震災の後だった。市街地にある自坊は全焼し、門徒宅はことごとく焼失。帰る所がなく焼け野原をさまようように檀家参りをしていた時期に大谷派山陽教区青年会に入り、ハンセン病問題をほとんど知らないまま長島愛生園での交流会に誘われて参加した。しばらくして邑久光明園に初めて行った時、入所門徒に「せっかく来たんだから」と後遺症の重い人の病棟に案内された。そこでは薄暗い中、手や足、指を失った元患者が何人も横たわっている。「怖くて正視できませんでした。日本にこんな所があるんだと」。早く帰りたいのが正直な気持ちだった。だが一人、ベッドからにらみ付けるようなまなざしを向ける男性がいる。体の一部がない。無言だったが、「お前は何しに来たんだ」と訴えているように当時25歳の中杉副住職は受け取った。激しい衝撃で、「この隔離の現実を見たお前はこれからどうするんや」という問いが、一人で2時間運転して帰る車の中でも消えなかった。

それでも実は「二度と行くことはない」と思っていたのが数年後、先輩僧侶が交流会で法話をするのに参加したのが転機になった。「念仏の話とばかり考えていた」のが、この問題に向き合い続けてきた先輩は国の隔離政策批判、らい予防法廃止の運動について語る。「これまでのようにここに収容されているのではなく、皆さん立ち上がってください!」という熱い訴えに戸惑う入所者もいたが、中杉副住職は「こんな法話があるのだ」と考え込んだ。震災で被災した中で、大学で学んだ宗旨が人の生きる場にどう生かされるのかを考えてきたが、「これも真宗なんだ」と。「初めは気の毒な入所者への慰問と思っていましたが、違ったのです」

病気になり真宗に出会った入所者もいる。教えをきちんと聞法しておれば、ハンセン病問題も当然のように問えなければならず、真宗とはそういうものでなければならない。そう説く先輩の言葉に感動し励まされた。長い差別の歴史の中で88年、療養所の離島に関係者の悲願だった「邑久長島大橋」が架けられた。本土との距離はわずか30メートル。以前、抑圧に耐えかね、この狭い海峡を泳いで脱出しようとして溺死した入所者も多かったといい、「人間回復の橋」と呼ばれる。だが、完成を心待ちにしていた入所者たちが喜んで渡り初めをした時、本土側には迎える人は一人もいなかった。隔てられているのは人々の心。人間性を回復させられなければならないのは元患者だけではなく、その橋を渡って訪れる者だと中杉副住職は思った。「信仰は単に個人レベルにとどまるものではなく、社会に広がる大きな力なのだと気付きました」

ではどうするのか。中杉副住職は震災で焼け出された時、近所の中学時代の友人と1カ月ほど避難所で共に過ごした。友人は自宅が倒壊し、下敷きになった家族が燃え移ってきた火災で焼死した。「もう涙も出ないと思うほど悲しみ抜いてもまだ泣けるのです」。そんな日々、友人が「自分でどうしようもないときに一緒にいてくれて良かった」と話す言葉に勇気づけられた。真宗で何ができるのか悩んでいたが、まず苦しむ人のそばにいる、「そのことに大きな意味がある」との信念が自分を突き動かした。

(北村敏泰)

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