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ハンセン病療養所⑦ 2日前に「私は本名で死にたい」

園内の供養塔には故郷に戻れない遺骨が眠る(邑久光明園) 園内の供養塔には故郷に戻れない遺骨が眠る(邑久光明園)

中杉隆法副住職は療養所の人たちに励まされることも多い。長島愛生園で付き合いが長い、80代の田端明さん夫妻とはよく茶飲み話をし、手紙のやりとりもした。だが15年前、妻直子さんががんで亡くなり初七日に園を訪問したところ、夫は妻の遺骨壺に「茂子」と名前を書き入れていた。ハンセン病療養所では患者の多くが自らや故郷の親族への差別を恐れて「園名」といわれる仮名を名乗ることを余儀なくされた。茂子さんも親からもらった名を隠し、「直子」で何十年も生きてきたのだった。副住職は「本当ではない人生を強いられた。でも、宗門内でハンセン病問題担当として動いてきた自分は、親しい方の本名さえ知らず分かったような顔をしていた」と落ち込んだ。しかし明さんから伝えられた話に支えられた。茂子さんは息を引き取る2日前に「私は本名で死にたい。こんなことが二度と繰り返されてほしくないから」とはっきり告げたというのだ。

らい予防法廃止後の1998年から、中杉副住職ら真宗大谷派のグループは支援の一環として元患者が故郷へ戻れるよう「帰還運動」に全国規模で取り組み、菩提寺を突き止めて墓参を勧めた。ところが希望者はほとんどいない。病気が治っているとはいえ、多くの人が「自分のせいで家族親戚が差別を受けてきた。今帰ったらまた差別が蒸し返される」と拒んだ。東京の施設にいる70代の男性は菩提寺が九州と判明し、「迷惑掛けたので家へは帰れないがせめて墓参りを」と切望する。だが僧侶が下調べに行くと、先祖代々の墓の銘ではその人が亡くなったことになっていた。諦めざるを得なかった。故郷の寺の写真を見せても「懐かしい」とも言わず、「帰りたい」とさえ口に出さない人も。帰還実現はわずか1、2例という現実が示す偏見の壁に中杉副住職は愕然とした。

ハンセン病問題には以前から様々な宗教教団、宗教者が関わってきたが、その歴史も複雑だ。1931年の癩予防法で隔離が強化されると、地域ぐるみで競って患者を見つけ出し収容するという「無癩県運動」が各地に広がった。この時、地元の事情をよく知る寺院関係者が積極的に協力し、その通報で収容された例もある。「石を投げられ追い出された」との証言を聞いた中杉副住職は「そんな経緯による寺への不信感が帰還運動にも影響したのかもしれない。当時、国が住民や宗教者にも恐怖を植え付け、隔離に加担させたのが問題です」と語る。

だが中杉副住職は「宗門の従来の姿勢は決定的に誤っていた」と厳しく指摘する。31年には「大谷派光明会」という団体が組織され、僧侶が療養所に入って「ここで信仰に生きよ」と熱心に布教した。48年には抑圧に耐えかねた入所者たちが「全国国立らい治療所患者協議会」を結成して法改正を訴えたにもかかわらず、「終生隔離を前提に、それを補完したのです」。その頃に愛生園に収容された男性は、菩提寺住職が光明会の方針に沿い、男性が「祖国浄化」のために園に暮らしていると地元で暴露したために家族が差別に苦しんでいることを知った。後に80代になった敬虔な信徒の男性が「私は大谷派を捨てた。一生許さない」と語る重い言葉を直接聞いた中杉副住職は言う。「かわいそうな人に憐れみの対象として手を差し伸べる運動はしても、法廃止や島への架橋推進運動といった解放への運動もしなかったことで、2度間違ったのです」

(北村敏泰)

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