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ハンセン病療養所⑧ 差別した側もともに人間回復へ

入所者と僧侶の交流会は和やかな雰囲気だ(長島愛生園) 入所者と僧侶の交流会は和やかな雰囲気だ(長島愛生園)

療養所入所者と僧侶らの交流会で、邑久光明園浄土真宗法話会会長の吉田藤作さんが回顧した。「らい予防法が廃止されてから、坊さんがよく来てくれるようになった。昔は見学者が来ても舞台の上に並び、我々が下に座らされて当たり障りのない話だけだった」。高齢化で長年苦労を共にした入所者は次々と亡くなり、園内作業も立ち行かない。自らももう90歳。「皆に助けられながら供養を続けています」と園内寺院で勤行するが、楽しみは趣味のカメラやテレビくらいで寂しい毎日だと話す。顔に後遺症があり、同じような人は皆、差別に敏感で苦しんできたという。だが「私たちは目に見える所に見られたくないものがあるので、周囲から偏見を持たれた。しかし目に見える外見に問題がなくても、自分の心などの内面を本当に堂々と他人に見せることができますか? 一人一人がそのことを考えてほしい」と、信仰に根差すその言葉は重い。

遺骨になってさえ故郷に帰れない元患者たちの無縁状態。中杉隆法副住職は「これこそ真宗が働くべき問題。法が廃止され医学的に完治しても、人間のつながり、関係性を取り戻すことは宗教の役割です」と言う。本人も家族も心から変わっていくことが大事で、「そのためにはじっくり話し続けるしかない」。以前に行った「帰還運動」ではこんなこともあった。元患者たちが国を相手取った訴訟で勝訴し国家賠償金が出ても、園内で使い道がない。そんな九州出身の男性(89)の娘が兵庫にいることが判明した。中杉副住職らは60代になっていたその娘に会いに行く。父が死んだことになっていたため驚いたが、事情を詳しく話して父の手紙を見せると娘は納得し、後に孫、ひ孫を連れて園に会いに来た。

かつて強制収容された際に宗旨を選ぶことが終生隔離の補完であったとはいえ、園内の各宗教の共同体意識は強く、「ここで人間としていかに生きるかを考えて深まった信心と互いの結び付きが支えになっています」と中杉副住職。交流に通い始めた20年前、「南無阿弥陀仏」の大声の念仏が寺の外まで響いていて驚いたという。僧侶がいなくても、吉田さんら先輩が後から入った人に読経を教え、寺の維持から遺骨や法名、年忌の管理まで信徒が自主的に行う。かつての潜伏キリシタンを思わせるようなその精神生活こそが、故郷から断絶された苦の中で、それでもつながりを求める信仰の表現だ。

交流会の後片付けを終えた中杉副住職はかみしめるように口に出す。「念仏するということは、ここで安心して暮らせるということではなくて、奪われた人間性をもう一度回復し、人間を解放することなんです」。これは、若い頃に発病して40年間も療養所に隔離された故伊奈教勝さんの言葉だ。大谷派の僧籍を持った伊奈さんは1947年の入所時、親族への差別を懸念し、園名「藤井善」を名乗ることで自らの人生を一度捨てた。だが89年に本名を名乗り、73歳で亡くなるまでハンセン病への偏見を除く活動を続けた。伊奈さんはこう話している。「人間とは関係としての存在です。お互いにいのちの尊厳を侵さないことが基盤でなければなりません」。本名を名乗るのは自らの人間解放への宣言であると同時に、他者のいのちの尊厳を確認すること。「本当の人間回復とは、私を園に送り込み差別した側もともに回復することです」

(北村敏泰)

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