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ハンセン病療養所⑩ 被災者の心に届いた苦難の記憶

「帰れない遺骨」が眠る納骨堂に参拝する子供たち(光明園) 「帰れない遺骨」が眠る納骨堂に参拝する子供たち(光明園)

一昨年7月の「ワクワク保養ツアーin邑久光明園」の2日目、参加者たちは園西側の寺町地区にある死没入所者納骨堂に参拝した。暑さの中、屋根に五輪を載せた六角形の白い堂の前に子供や母親たちが並び、法衣の若い僧侶が読経、全員が献花や焼香をした。

中杉隆法副住職が「ここには亡くなっても故郷に帰れなかった3200人の方が眠っておられます」と説明すると、子供らも静かに合掌する。続いて東側の元火葬場跡にある公園では、かつてほぼ強制的に中絶され、ホルマリン漬けの標本にされていた胎児49体の遺骨を納めた慰霊碑を副住職が解説した。ハンセン病患者たちの苦難の記憶は、参加者らの心に届いたようだ。

実は、保養を企画する段階では実行委員会の僧侶らに心配もあった。入所者には「子供らが怖がらないか」と懸念する人もおり、参加募集をしても誰も来なかったらそれが“現実”になってしまう。だがフタを開けると多くの応募ですぐに定員いっぱいに。中杉副住職は「各地に保養先がある中で選んでくれたのは理解があるから」と安堵した。

2人の子を連れて福島県郡山市から参加した吉田幸子さん(38)はハンセン病について中学の社会科の授業で知っていたが「教科書だけなので実際に来て学び、子供にも教えたかった」と話した。「幼い娘には『差別』ということは理解できないでしょうが、事実を知って、人を変な目で見てはいけないとか少しでも感じてほしい。大きくなったら分かるでしょうから」

隣接の長島愛生園の寺で夕食を囲んで開かれた交流会で、ここで67年間暮らす入所者の男性(87)の話を聞いた。20歳の時に近所の住民が保健所に投書して病院に入れられ、園では重労働して苦労してきた。最近は兄弟がたまに面会に来るが「家に戻ってもお茶も出してやれんかも」と近所を気にする。「だからここで死ぬしかない」が、わずかな財産は親族に送るつもりだという。国立最古の愛生園など岡山・香川両県の3療養所を世界遺産にしようという動きがある。だが男性は「うれしくもないです。私たちが皆、死に絶えたら誰もここへは来なくなるのでしょう」と悲しい目をした。毎年多くの仲間が亡くなり、入所者の居住棟には空き家が目立つ。庭が夏草に覆われたその様子は、住民が年々欠けていく被災地の仮設住宅を思わせる。

光明園の山口淑子さんは「ひどい原発事故でお母さんたちが故郷を追われた上に、子供が大きくなったら差別されるのではと心配されている。同じような境遇で気持ちはよく分かります」と涙をにじませた。参加者の母親らはそんな元患者たちの訴えを子供と熱心に聞いた。入所者にフクシマや放射能に偏見がなく、自分事のように心配してくれることに気付いた幸子さんは「皆さん信仰を持っておられる深みでしょうか。お坊さんがこのような機会をつくってくれたのがありがたいです」と言う。

「苦労が相通じるから理解し合えて良かった」と中杉副住職は保養を振り返った。入所者とすっかり打ち解けた最終日、久しぶりに屋外でたっぷり遊び真っ黒に日焼けした子供らは、お別れパーティーで一人一人マイクを握り、「また来ます。お元気で」「ありがとう。絶対に忘れません」と挨拶した。「いつでも帰っておいで」。笑顔でそう答える高齢の元患者たちと互いの胸に温かい言葉が響き合った。

(北村敏泰)

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