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ひとさじの会① 路上での飢えに念仏と粥勧める

定例夜回りの日は光照院玄関に会ののぼりが出される 定例夜回りの日は光照院玄関に会ののぼりが出される

東京都台東区の隅田川沿いの公園。3月下旬でも、夜9時近くになると冷え込みがこたえる。汚れた毛布1枚にくるまってベンチで寝ている中年男性に僧侶とボランティアが「こんばんは。ひとさじの会です」と大きなにぎり飯と防寒用アルミシートを手渡すと、「ありがとうね」と小声が返った。少し離れた段ボールの小屋に住む男性は外へは顔を出さず、食事配給に黙って会釈する。橋の下では河川敷通路のコンクリートの地べたに布やブルーシートを敷いただけで、ジャンパーに帽子でごろ寝する人が3人。「この場所は暗くて見つかりにくいからです」。浄土宗法源寺副住職の高瀬顕功・ひとさじの会代表(36)が説明する。

同会は2009年に浄土宗僧侶らが中心になって発足した社会的困窮者支援の団体。現在では他宗派の僧侶や一般のボランティアも含めて20人余りが、路上の野宿者が多い東京・山谷や浅草一帯で炊き出しによるおにぎりの夜回り配食を軸に、寺院の米支援呼び掛け、困窮者の葬送支援などを行っている。仏教の“慈悲”の精神から「社会慈業委員会」が正式名称だが、宗祖法然の伝記に紹介される路上の病人にひとさじずつ重湯を口に運ぶ姿に学んで「ひとさじの会」を通称にする。

炊き出しは毎月第1、3月曜日。台東区山谷地区の街中にある浄土宗光照院で調理が行われる。配食は夜だが、午後1時半すぎから僧侶や支援者が集まり始めた。檀家や全国の支援寺院から寄せられた米をとぎ、玄関の外に3升炊きの大釜二つを据えて各3回、計18升を炊く。道路を挟んで寺の向かいに借りたガレージが調理場。会創設者の一人で事務局長の吉水岳彦・同院副住職(40)も作務衣姿で忙しく動き回り、食材を運ぶ。握るのは主婦や学生も含めたボランティアの女性が大多数。「今日はカツオとワカメよ」とほかほか湯気の立つ炊きたての飯にふりかけを混ぜ、はかりで1個分ずつ計量してはラップでくるむ。男性僧侶も交え、「いい形ね」「愛情がこもってるよ」と談笑しながら、ソフトボールくらいもある大きなおにぎりが次々出来上がった。

路上でも食べやすいように1個で約300グラム。それを180個ほど配る。活動日が月曜なのは、ほかの支援団体との重複を避けるため。では一般のボランティアと異ならないのか。会の名、そして吉水副住職が「お腹がすいてはお念仏もできません」と言うのには重要な意味がある。「ひとさじ」の逸話は、伝記では法然のその姿を夢に見た僧・明遍が「重病人には三論や法相のみかんも真言・天台の柿も食べられない。だから上人は念仏三昧の重湯を勧めるのだ」と気付く。「病人」とはこの世で苦しみ煩悩に迷う私たち人間。自らの力では正しい道に進むことができないその凡夫には、高尚な教義や修行ではなく念仏こそが救い。そう説く吉水副住職は、だが「阿弥陀様の救いを受ける出世間的利益を得る念仏と、病人が一時の飢餓を潤す世間的利益の粥はもちろん質的に違いますが、世には苦に満ちた生死・病と路上で飢えるような現実があります。そこで何が必要なのか。法然上人は念仏と粥とを勧めてくださるのです」と指摘する。

ホームレスを生み出すゆがんだ社会を自分の力で変えるのは困難でも、目前の困窮者に手を差し伸べる緊急避難的な支援も欠かせない。それを仏教者として推し進めているように見えるひとさじの会の活動には筋金が入っている。

(北村敏泰)

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