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ひとさじの会② 出発前、自分に向き合う時間も

ボランティアたちは野宿のおじさんを思っておにぎりを作る(光照院) ボランティアたちは野宿のおじさんを思っておにぎりを作る(光照院)

3月下旬の「ひとさじの会」の活動日、事務局のある東京・山谷の浄土宗光照院では調理が終わると、僧侶やボランティアたち20人余りが本堂で夜回りの準備を始めた。できたてのおにぎりは10個ずつ保温袋に入れ、一緒に野宿者に配る物を仕分けする。とても和やかな雰囲気だ。この日はいつも支援に来る在日ベトナム人女性が鶏肉料理を差し入れ、福祉団体から寄付された風邪薬、胃腸薬、ばんそうこうなどの医薬品類、靴下や軍手、手編みのカーディガンもある。事務局長の吉水岳彦・同院副住職らが「おにぎりとカイロを一緒に渡して、体にどこか悪いところがないか、こちらから聞いてください」「パンツはサイズを尋ねること」ときめ細かく説明。配布品リストや巡回記録票など活動の段取りはしっかりしており、行政や支援団体連絡先、生活保護や福祉制度の手続きを記した「路上脱出 生活SOSガイド」も希望があれば手渡せるように何部か持参する。

山谷の商店街や上野、浅草など野宿者が集中する6地区のコースに巡回メンバーを振り分ける。配布品をかばんに詰め、ポケットがたくさんあるベストに薬類を分け入れて準備が整うと、仏壇を前に全員で出発前の法要を行う。設立趣旨から会が重視しているもので、毎回必ず実施する。信徒でない人もいるので関わりは自由だが、いつも全員が参列する。次第書きが配られ、高瀬顕功代表が夜回りのジャンパーに輪袈裟姿で導師を勤めて読経が始まった。「路上で亡くなった方々に思いを致して……」の呼び掛けで皆が合掌して10回の念仏を唱える。帰敬文や懺悔文などに続いて、法然の法語「随順佛教」をそろって読み上げる。

「……仏は一切衆生をあわれみて、よきをもあしきをもわたし給えども、善人を見てはよろこび、悪人を見ては悲しみ給えるなり。……かまえて善人にして、しかも念仏を修すべし。是を真実に仏教にしたがうものという也」。誰しもが念仏で往生することに区別はないが、慈悲を行わないことは間違いであり、念仏しながらの善行こそが真の仏教の道だ。その意味を参加者がかみしめる。「仏陀の教えそのものに人を照らす力はない。それが人を通し、人格に体現されて初めて人生の光となり、人を導く力となるのです」。吉水副住職がかねて「行い」の重要性を説いているのもそれだ。本堂の照明が落とされ本尊阿弥陀如来像だけを明かりが照らす中で何分間も念仏が続き、焼香台が回った。厳粛な時間は、参加者が「なぜこの活動をするのか」と自分に向き合う機会でもある。

午後8時、各コースに分かれて徒歩や車でそれぞれの地区に出発。浅草の待ち合わせ場所で合流して配食から参加するボランティアもいる。この時刻にするのは通行人が減り、路上の「おじさん」たちが安心できるからだ。高瀬代表や女性2人と共に隅田川沿い台東区コースに参加した。現場の白鬚橋たもとに着くと川辺はひんやりしている。高瀬代表が念を押すように「笑顔で配ってください。横になったり座り込んでいる方と同じ目線で」と確認し、全員で「十念」を唱えてから歩きだした。おにぎりの入った頭陀袋はずっしり重く肩に食い込む。黒く広い川面を挟んで向こう岸に東京スカイツリーが輝くが、足元はかなり暗い。きらびやかなイルミネーションを遠くに望む河川敷の通路を進むと、ひっそり静まり返った段ボールの小屋が見えてきた。

(北村敏泰)

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