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ひとさじの会④ 路上生活の背景に様々な要因

段ボール小屋の野宿者におにぎりを配って話し掛けるメンバー 段ボール小屋の野宿者におにぎりを配って話し掛けるメンバー

その男性は公園から道路に出る階段にうずくまり、身じろぎもしなかった。ひとさじの会の夜回り配食で隅田川沿いの最後、コンビニやスナックが並び人が行き交う繁華街の間近で、そこだけ凍り付いたかのようだ。その60代後半のTさんは高瀬顕功代表が「具合悪いですか?」と尋ねても首を横に振るだけで一言もしゃべらない。数分間の沈黙が続いた後、「寒い? 気を付けて」と帽子を渡すと、こっくりと無言でうなずいた。Tさんは前に体を壊して支援者が救急車で入院させ、生活保護を受けて施設に入ったが、しばらくして自ら路上に戻ってきた。以前に高瀬さんが聞いたところでは、かつては仕事をしていたが母親の介護で離職したまま復帰できず、自宅への引きこもりから金がなくなってホームレスになった。

時々、身の回りの段ボールにフェルトペンで詩を書く。「けさ落葉拾いをしていて銅貨を一枚拾った。いま時、銅貨一枚で何が買えるだろう。ボクの幼い時には、駄菓子屋さんに行けばベーゴマ、メンコ、フ菓子なんかが買えた。味の付いた紙をなめるクジ……たいてい浮き出て来るのは、スカ。今じゃ使われることもないハズレのこと。拾ったのが銅貨で……しかも一枚でなかったなら……けさの拾いものは、今のお店屋さんでは買えないものをボクにくれた……」。びっしり書かれたきれいな細かい字に人生懐古の思いがにじむ。別の紙には「ボクはキミとむかしばなしをしてみたくなった。ボクのかかえてるあのころと、キミのかかえてるあのころを、もちよって。ボクはちょっと、あのころのボクにあいたくなったんだ」。

ほかの詩では「路面に散り敷かれた 赤に黄に色づいた木の葉と まだ梢に留まる木の葉との……こんな囁きが聴こえてくる 『あんたのほうが さき、いっちゃったね あたしももうちょっとしたら そっちいくから』『そんなに いそがなくていいよ でも、たのしみにまってるよ』」……。高瀬代表は「Tさんのような事情は誰にも起こり得る。非婚だったり身近なトラブルで路上へ出る人と、出ずに済んだ人とどこが違うのか。たまたまセーフティーネットにかからなかっただけです」と語る。「でも、路上生活が必ず不幸だと決め付けてはいけません。缶集めや路上からガードマンの仕事に通う人もいる。今まで生きてきたその方の矜持で、他人の世話になりたくないと思う場合もあるのです」。人間の生活とはこうあるべきだという思い込みに疑問を投げる。Tさんは今は足が不自由で缶集めもできないが、近所の人々にも食料を世話になって暮らし、「いろんな人とつながれて自分は幸せ者だ」と話したという。

事務局長の吉水岳彦・光照院副住職も多様な人と出会った。おにぎり支援を経て生活保護で山谷の簡易宿泊所に暮らすようになった60代男性が、寺に炊き出しの手伝いに来るようになったが、夏の暑い日、汗だらけの顔を洗うよう水道の前で石鹸を渡すと、顔中に真っ白に塗ったまま。石鹸を洗い流すことを知らない男性は、幼い頃から親に面倒を見てもらえない虐待や暴力を受け、入浴や洗濯、食事の仕方など「普通のこと」ができないのだ。単純労働の仕事に家を出されたが職場でうまくいかないまま年を取り、路上に出ていた。「個人の問題ではなく親と子の貧困や虐待、社会の様々な要因がホームレス問題に関わるのです」と強調する。

(北村敏泰)

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