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ひとさじの会⑤ 今なお消えない後悔を糧に

寺で打ち合わせをする高瀬代表㊧と吉水副住職 寺で打ち合わせをする高瀬代表㊧と吉水副住職

吉水岳彦・浄土宗光照院副住職の姿勢の原点は10年前の活動開始にある。野宿者の多い山谷地区にある寺の長男として生まれ育ち、子供の頃から「おじさんたちは身近な存在」だった。通学路上に何人も寝ている人がおり、救急車もよく来た。小学校の校庭を金網フェンスに鈴なりになってのぞき込む野宿者たちに「気持ち悪い」と感じたが、「今考えると、児童たちの姿に離れた家族を思っておられたのですね」。中学でも教師から「お前の住んでいる町はひどい所だ」と言われ、近所の住民には「あれは怠けた人たち」と教えられた。「後で、そうじゃないと分かった。彼らは懸命に生きているのです」

安直に寺を継ごうと考えた大学時代は遊び回ったが、思い直して大学院生で宗門高の教壇に立った際、最前列の女子の手首にリストカット傷があるのに気付いた。激しい衝撃を受け、何とか支えたいと思ったが声も掛けられないままだった。そこで青少年を支援する僧侶の集まりに参加する。そんな時、地域の生活困窮者をサポートする団体から野宿者らの墓をつくる相談を受け、彼らの実情を勉強するため新宿中央公園での年末年始の越冬支援活動に参加した。初日に自己紹介する間もなくいきなり、腎臓病が悪化した男性に付き添って救急車で病院に行くことに。足に水がたまりパンパンに腫れて動けないのに、男性は「いいんだよ。俺もう長くないから」と笑顔さえ見せる。何カ所か当たってようやく受け入れ先があり、最低限の治療を受けさせて公園に戻ると仲間と一晩過ごした。

そこの医療支援テントで医師から、野宿者だと救急でもきちんと病院に運ばれず、付き添いがいても3時間たらい回し、下手をすると次の日や他県の病院になる実態を知らされた。「同じ人間なのに」と現状にがくぜんとする。やくざに暴行されて大けがの野宿者もやって来た。医師は献身的に動いているのに、なぜこんな場に宗教者がいないのか。吉水副住職はペットボトルを切った簡易尿瓶を渡して尿の後始末することしかできなかった。「何をしたらいいのか、おじさんたちの話を真剣に聞きました」

副住職は「それまで貧困というものを見て見ぬふり、見えないものとどこかで割り切っていたことに気付かされました」と言う。「私自身、山谷に育って路上で人が寝ているのが“当たり前の風景”になっていた。貧困問題は現場で見ようとしないと理解できないのかもしれません」。ボランティアに同行し、野宿者の前にしゃがみ込んで食料を渡し、一人一人の思いに耳を傾けるのに接した。雨の日も雪の日も休まず、相手からストレスをぶつけられてもしっかり向き合う姿勢に感動した。そして宗教者としての葬送支援と、生きていくための食料支援を両輪に活動を始めた。

ひとさじの会の活動でも苦い体験がある。3年目の冬、厳寒の公園にいる男性が激しく咳き込み周囲が血だらけになっていた。明らかに吐血で、夜回りに参加した看護師が脈を取ると瀕死の状態。だが男性は「酔って頭ぶつけただけだ。あっちへ行け」と気丈に言い、呼んだ救急車も拒む。

副住職らにはどうしようもなく、結局翌朝に男性は亡くなった。「なぜあの夜、少し離れた所からでも寄り添えなかったのか。一晩だけなのに、その場にとどまれなかったのか。おじさんの幸せとは何か」。副住職も夜回りした仲間も、今なお消えない後悔を糧にしたいと思う。

(北村敏泰)

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