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自死に向き合う僧侶④ 手紙への返事、細心の注意払う

相談の手紙は時期ごとにファイルにして保存されている 相談の手紙は時期ごとにファイルにして保存されている

「死んで楽になることしか考えられない」――。勤務先で過労によってうつ病を発症したのに休職もできず、ただただ耐える日々を送って疲れ果てた中年男性からこんな内容の手紙が「自死・自殺に向き合う僧侶の会」に来た。相談内容は究極のプライバシーであるため外部には絶対に明かされないが、セーフティーネットの欠如など現代社会の様々な問題点、矛盾が個人の自死念慮につながることを示す典型的なケースを、前田宥全住職は幾つか挙げる。

級友や教師によるひどいいじめを経験したことから社会に出て適応できず、自分が生きる意味、存在価値が見いだせないという男性は、手首を切るなど自傷行為を頻繁に繰り返していた。

子供の頃に親からネグレクトされて育った女性は、社会性が身に付かず、周囲との不適合から長期にうつ病を患い、「自分が生きているという意識」が希薄になっていた。また、生活苦の上に障がいがある子の育児に悩む母親は、先行きの見えない不安や苦悩、「この子が苦労するのでは」と産んだことへの自責の念を抱え込んでいる。「子供も生きることが大変なようなので、一緒に死んで楽になった方がいい」と訴えてきた。福祉の貧困が誤った方向へ追い込んだ。

こんな叫びのような手紙は、筆跡や文面にも苦しみが表れる。文字が震えている、筆圧が弱く字が薄い。表現が乏しかったり、中心が整わず何を言いたいのか判然としない文章は、考えが混乱して狭くなっていることをうかがわせる。これまでの手紙の分厚いファイルを見やりながら前田住職は「『今日もリストカットしてしまいました』と、便箋に血が付いていることもあります」と明かした。このような相談には、まず「よくここまで頑張って来られましたね」「どんな事が一番苦しいですか」と、あくまで相手の立場に立って寄り添い、まず事実関係や思いを明確にして状態を把握することから始める。

班で協議して書く返事は細心の注意が払われる。文面は、相談者への共感、支持や状況、経緯などで構成されるが、「相手の状態やタイミングによって構成を変える必要もあります」と吉田尚英住職は説明する。例えば「その通りですね」といった支持文を先に持ってくるなどの工夫で、受け止められ方が違ってくるという。何か意見や助言などを伝える際は、その根拠を必ず伝え、相手の意図も尋ねる。「私は……だと思います。なぜならば、……と考えるからです。あなたはどう思いますか?」といった具合。プライバシー問題で抽象的な説明だが、このように返事は練りに練る。そして、このような相談者への関わり方は班でしっかり共有する。

苦労するのは、相談者が自立し前向きに生きることを目標とできないとき、あるいは僧侶とのやりとりでそういう状態に適切に進んでいけない場合だと前田住職は言う。絶望的な状況にある相談者が「死にたい」とはっきり訴える場合、吉田住職は「死んではいけない」とは決して言わず、「死んでほしくないと願います」と伝える。「こんなつらい状況なら死にたくもなるだろう」と気持ちが分かるケースもあるからだ。この姿勢は会員全体に共通している。会の目的が必ずしも自死自殺の「防止」ではないということにもつながるが、個々の会員僧侶の人生観や生命観によって、その見方や表現には微妙な差異もうかがえる。

(北村敏泰)

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