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自死に向き合う僧侶⑧ 面談、苦の根拠見つけその先へ

前田住職が相談を呼び掛ける張り紙は目立つように掲示されている 前田住職が相談を呼び掛ける張り紙は目立つように掲示されている

「自死・自殺に向き合う僧侶の会」共同代表で、自坊・正山寺に「あなたのお話 お聴きします」という張り紙を出している前田宥全住職の話に戻ろう。20年以上前から続けているが、この山門脇の掲示板のメッセージだけで多くの人が面談を受けに訪ねて来る。あらかじめ申し込んでもらい日に3~5件、1回80分までと決めているが、予約さえすれば何度でも相談することができる。今も月に30~40人に上る。「それだけ苦しみを抱えている方がいるということです」

相談者は10代から90代まで。得体の知れない不安を抱える中学生、会社で上司にいじめられて仕事を辞めた40代。独り暮らしの高齢者は「今後どうやって生きていけばいいのか分からない。話せる人もいない。あと10年生きるにせよ、その間ずっと今のような生活を続けるのはあまりに寂し過ぎる。死んじゃった方が楽だと思う」と打ち明けた。前田住職は継続的に話し相手になった。

面談では言葉の表面だけを聴くのではなく、気持ちを聴く。「分かった、と言うより、分からないけど苦しいのですねと伝えることです」。ひたすら耳を傾ける「傾聴」も大事だが、「抱えてこられる苦悩は十人十色以上でそれぞれに具体的。だから苦の根拠を見いだし、それを乗り越えて先へいくことが大切」だと強調する。

ここでも、釈迦が真理に至る道として説いた四聖諦の教えが念頭にあるという。対話を通し、何が問題でその原因や背景は何か、そこからいかに抜け出すかという道理の探究の繰り返しによって方向性を見つける。「例えば経済的に困窮していても、自分が貧乏ながらもどう生きるかという方針が明確なら苦は軽減されます」

カウンセリングというより、対等性を保った対話を大切にしているからできることだと前田住職は語る。実際には、住職が先導したり説いたりするのではなく、質問しながらその人の意識を引き出す。「幸せ」「人生」といった重要な言葉が発せられたら、「それはどういう意味ですか?」と聞く。多くの人はハッとして困り、答えられないことが多い。「生き方」について答えられる人はまずいない。しっかり考えたことがないからだが、それでは駄目だと責められている気持ちを相談者に抱かせないよう、「それがあれば大丈夫かもしれませんね」などの気配りが欠かせない。

相手がそんな考えの筋道を見いだすためには、その人の成育歴、生活様式、環境などを話題に話を進める必要がある。いきなり周囲から抑圧されてパニックになっている人もいれば、今の環境に問題がなくても虐待されて育ったことが要因のケースもある。根気と力の要る取り組みだ。「私も知っています」や「たら」「れば」の曖昧な仮定の話は禁句。単純な同意や同調ではなく「なるほど、そう感じておられるのですね」という温かい“相づち”が大事。本当に「分かる」というのは共感だけでなく、気になる、共に苦を歩んでいるという姿勢だという。

中には「これなら死にたいと考えるのも無理はない」と思えるケースがある。もしも最終的に本人の「死にたい」の意思を受け入れるとしたら、そのためには対話を徹底して尽くしていなければならない、と前田住職は言う。そうでない、あるいは本人にまだ確固たる自覚がないことがうかがえると「いや、もっと考えましょう」と言わざるを得ない。神経がすり減るような「対話の格闘です」。

(北村敏泰)

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