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自死に向き合う僧侶⑨ 逃げも隠れもせず人に接する

僧侶の会は様々なチラシやパンフレットで啓発活動を繰り広げる 僧侶の会は様々なチラシやパンフレットで啓発活動を繰り広げる

自死問題に向き合う前田宥全・正山寺住職は、自坊で続けている面談のやり方を「仏教に教わった」と話す。大学や専門機関で臨床心理を学び、カウンセラーの資格を取って引きこもりの若者のケアなど実務も経験したが、寺で相談を始めてみたら「仏教の学びである四聖諦と同じ。いや、この智慧は人が生きるための道しるべとなる」という。現実に、心理療法や精神科を受けても希望が見いだせない人が来ることも多い。ずっと鬱だった人が何度か訪れて改善されるケースもある。

「仏教が根底にあるから相談活動ができる」と言うが、面談で仏教の話はほとんどせず、最初に「布教ではない」と明言する。仏教とは「生き方」であり、日常の平たい言葉で話していればそれが伝わっているからだ。心理カウンセリングと「明らかに違うのは“覚悟”」と話す。世間では僧侶が継続的に悩み相談活動をしているという理解はまだ少ない。しかし、カウンセラーや医師は職業だが、「僧侶は逃げも隠れもできない、しない立場で人々に接していくという、その生き方を選んだ覚悟があるはずです」。

そんな姿勢は生まれ育った寺の住職だった父親から学んだ。三男で寺を継ぐ気はなかったが縁あって宗派も異なる正山寺へ招かれた際、実家の寺でいつも訪ねて来る人々の話を聞いていた父の姿を思った。年中本堂を開け放ち、信者寺で檀家でもない人の悩みに向き合う。「あんなすごいことができたら素晴らしい」と憧れて僧侶になった。その手本通りに生きる今は、相談に来る人方から学びの連続だ。人々が抱える様々な苦悩に接し、「この世の曖昧さ、無常をリアルに感じ、そういうこともあるんだと受け止める。何があってもその苦から逃れる道を仏教で見つけるのです」。

「様々な事情の中で、自死することが必ずしも悪いことではないと思う」と重ねて口にする。例えば生活苦に人間関係もずたずたで孤独にさいなまれ、生きる意味が見いだせない。そんな苦しみを打ち明けた50代の男性が「死んじゃ駄目なんですかね?」と問うた時、「正直申し上げて、そこまで苦しまれているなら死にたいと考えるのも自然だと思います。私だったら死んでいたかもしれません」と答えた。すると男性は「ああ、そうなんだ。そこまで言われたのは初めて。勇気をもらった」と何かがストンと落ちた表情になった。

自死の理由に高齢や病弱などで「周囲に迷惑を掛けたくない」というケースがある。これに対して、「支え合いなのだから、迷惑を掛けるなどと考えないで」との応答があるが、前田住職は「迷惑を掛けないという判断も尊重すべきです」と語る。その判断は当事者の規範であり、そう訴えざるを得ない事情があるからなのに、否定するのは当人の状況を無視することだからだ。また、常に誰かの支えがあり自死防止策も充実しているとはいえない社会の現状に、「迷惑を掛けていい」と言うのはしらじらしく感じるという。「サポートに頼るだけでなく、自立・自活こそが自死対策や個人の尊厳・生き方の根幹に必要です」

自死で地獄に堕ちることなどないが、遺族らを悲しませるという意味では「罪」だと指摘し、必要なら遺族にもそれは伝える。ただ、自らも他者をも苦しめない生き方、亡き人がどのように生きたかったのかを想像し遺族がそれを実現してあげることでその罪を払拭することができる。住職との交流の末に心が安らいだ人がたとえ最終的に自死を選んでも、その遺族から、「安らかに亡くなりました」との手紙が住職に届いたこともある。

(北村敏泰)

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