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自死遺族の苦悩② 同じ境遇の者同士、慰め合う

小鳥の姿が遺族の心を癒やすこともある 小鳥の姿が遺族の心を癒やすこともある

森田敦子さん=仮名=(53)は2010年5月に、当時21歳の長男真也さん=同=を亡くした。普通に勤めていて異変は感じられなかったが「その日は気分が悪いので休む」と自分で会社に連絡し、母親が用事で外出した間に風呂場で命を絶った。見つけたのは敦子さん。「その姿ばかりが夢に出てきます」。乗った救急車で死亡を告げられたのに「苦しんでいませんか」と何度も尋ねた。後になって「自死の原因を探したら、自分を責める材料がいっぱいあって苦しくなるばかりでした」。直前の真也さんを見ていた中学2年の弟も「何で止められなかったんや」と自責の念を抱える。だが母親が泣いていたら「兄ちゃんは病気で死んだんやで」と慰めてくれるのが救いだった。

3年前に七回忌が終わってから、「責めても息子は戻らない」とつらい原因探しをやめることができた。真っ暗闇の底で凍り付いていたあの時に「戻るのが怖いから」と打ち明けるが、ここまで来るのに周囲とのあつれきもすさまじかったという。夫とは結局理解し合えず別れたが、詳しくは語らない。自死のことはほとんど誰にも話していないのに、皆がうわさ話をしているという恐怖感にさいなまれ続けた。現実にうわさを流す人もいて、全く縁故のない土地へ引っ越した。

「私が重たい存在と思われるのか、苦しいのに誰も助けてくれませんでした」と親友とも連絡を断つ。最近になってようやく関係が戻ったが、付き合っても真也さんについての話は互いに避けているという。

何とか落ち着いた今、ひっそり暮らすマンションの自宅の本棚の上に置いた簡素な仏壇には、笑顔の遺影に花が供えられている。果物のほかにあめなどの菓子と酒とが一緒に並ぶのが若かった真也さんに似合うようだ。敦子さんは毎日、手を合わせて話し掛ける。やはり誕生日と命日には、家族と別の膳に食事を供える。特別な料理ではなく、「私が作るご飯をあの子が好きだったので」と、肉じゃがなど普段の献立だ。

だが、今となって一番つらいのは、「あの子の記憶が段々と薄まるのです。声も姿も、まるで消えていくように」とうつむいて口を閉ざす。「私って母親として失格かな? 忘れてしまうんですよ! あの時、絶対に、一生忘れないと思ったのに」。その目が見る見る真っ赤に潤んだ。部屋の隅に小ぶりの鳥籠がある。飼っているジュウシマツのつがいがチュンチュンとさえずると、敦子さんは近づいて籠に手を触れた。餌や水を朝夕替えて世話をするその小さないのちがいとおしそうに。

多くの自死遺族が、それぞれ固有の苦悩と悲嘆を抱えて生活している。他人には理解し難いその苦しさを、しかし同じく肉親を亡くした者同士なら少しは分かり合える気がする。敦子さんもそう考えて、ある集まりで知り合った藤山房江さんと交流している。互いに住む町はかなり離れているが、時々に会うたびに慰め合う。二人は同じ形のロケットペンダントを身に着けている。

房江さんが首に掛けるその5センチほどの銀の筒には、亡き君子さんの遺骨の手指のかけらが入っている。「私が死んだら、この骨も一緒にお墓に入れてもらいます」。敦子さんのには、真也さんの赤ん坊の時の髪の毛が収められている。外食の際、「おいしいね」などと声を掛けることもある。二人とも肌身離さず持ち歩くその形見を握り締め、気持ちを通じるようにその手をそっと重ね合わせた。

(北村敏泰)

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