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北海道地震から見えるもの 成長戦略清算、宗教の可能性

北海道大名誉教授 土屋博氏

時事評論2018年11月9日 15時30分

日本での講演をきっかけにして、若い女性経済学者ケイト・ラワースの「ドーナツ経済学」という考え方が注目された(10月13日付朝日新聞掲載のインタビュー)。これは従来の右肩上がりの「成長戦略」を清算し、地球環境に配慮しながら身の丈に合った生活をするという方向を、あらためてドーナツの図を用いて考えようとするものである。21世紀は、従来の価値観の抵抗を退けて、まさにそのような経済学を再設計する機会としなければならない。

しかし、こうした考え方への抵抗は強い。大飯原発3、4号機をめぐる2014年の福井地裁判決は名古屋高裁金沢支部の逆転判決で取り消されたし、原子力規制委員会の基準も、エネルギー政策の見直しには、今のところ直ちにつながっていかない。しかし、もはやそれではやっていけないような事態が現在生じつつある。

それは、不可抗力の自然災害をきっかけとしてもたらされることになった。9月6日早朝に北海道で発生した震度7の地震は、北海道全域を停電させるいわゆる「ブラックアウト」を引き起こした。この前例のない現象は多方面に多様な形で影響を与え、その後さまざまな不安が続く。立地条件、建物の形態等々で被害のありさまは異なるが、根本的原因は北海道電力の経営状態にあった。

つまり、泊原発3基の停止を補うために苫東厚真火力発電所に全面的に頼っており、これが足を引っ張った。その際、苫東厚真を原発再稼働までの中継ぎとすることの危険性は考えられていなかった。予想されたように、これをきっかけにして、改めて原発の必要性を再考せよという論者も現れた。しかし彼らは直接の被害者ではなく、安全地帯に身を置いている。

被害の当事者たちは災害の実態を知っており、予想できない広がりを感じ取った。そのような人たちに向かって、第三者的に「両論併記」などを主張している場合ではない。

これは北海道電力だけにかかわる問題ではなく、JR北海道をも含め、道内の社会システム全体から考え直すべきである。しかし、システム構成要素相互の「選択と集中」を柔軟に考えていくことを検証委員会は避けたがる。

今回の出来事をきっかけとして、直接の被害者のみならず多くの宗教関係者が現地にかかわることになった。彼らが感じ取ったのはまず自らの無力であり、そこからひたすら現場で祈るという姿勢が生まれた(9月11日~10月4日付朝日新聞「てんでんこ」)。そこには個別教団の区別はなく、「宗教」というこだわりもなくなる。

その中で、右肩上がりの「成長戦略」や企業の「経営効率」から解放された「宗教」の本来の姿勢も、同様な形をとって自覚されてきた。宗教集団の個々の縄張りにこだわる必要は全くないが、またそれをなくす努力も不毛であろう。下手な努力は「成長戦略」と重なり、かえって「宗教」の道をそらす。本来の歩みは、個別の教団組織と利害関係を持たない信徒たちによって切り拓かれていく。新しい「宗教」の可能性も、そこから浮かび上がってくるはずである。

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