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「象徴」の意味模索の今上天皇 分断を乗り越えるモデルに

北海道大名誉教授 土屋博氏

時事評論2019年3月23日 13時06分

従来「天皇制」と結びつけられて批判的に取り上げられることも珍しくなかった日本の元号であるが、最近いつの間にか「平成時代」という言葉があまり抵抗なく用いられている。これをきっかけに、あらためて世界の「暦」にも目が向けられるようになり(中牧弘允『世界をよみとく「暦」の不思議』2019年)、それぞれの暦の文化的意義が認識された。それは重要なことであるが、日本の「平成時代」には、天皇制の転換期という独自のニュアンスが生じている。

それをもたらしたのは、今上天皇その人であり、生前退位と新天皇即位という出来事が、「平成」という元号に対する抵抗を希薄化してきたのではないかと思われる。その背景には、今上天皇が国民に接する自らの歩みを通して終始問い続けられた、象徴天皇という新しい天皇制の在り方があった。それに対する人々の自然な共感なしには、この事態はあり得ない。そこには従来の天皇の宗教的性格も、「宗教」理解のとらえなおしとともに、再考されざるを得なくなっている。

天皇制や元号の祭政一致的性格は、宗教を特定の社会集団と結びつけることに基づく。しかし、宗教集団とは切り離して皇室祭儀等を位置付ければ、信教の自由の問題にはならず、普通の私的な習俗と変わらなくなる。今上天皇は即位以来「象徴」天皇の在り方を、さまざまな苦難の中にある国民に寄り添う目線に立って模索し続けてこられ、それはごく自然に人々の共感を呼び起こしていった。

この模索は今後も受け継がれることが新しい皇族に期待されており、それを受けての積極的対応も、すでに秋篠宮発言のような具体的な形で現れつつある。議論の分かれる皇室儀礼については、さしあたり国費は使わず、皇室の私費で賄い、今後の推移を見守っていくのが妥当であろう。このように、「宗教」のイメージを特定の宗教集団の歴史的形態に固定せず、人間が信じあうことの可能性として、流動的にとらえ返すことが今後求められてくるのではないだろうか。時代の方向は今やそういう状況に差し掛かっている。

今上天皇は在位30年にあたり「憲法で定められた象徴としての天皇像を模索する道は果てしなく遠く、これから先、私を継いでいく人たちが、……象徴のあるべき姿を求め、先立つこの時代の象徴像を補い続けていってくれることを願っています」と在位30年記念式典で述べられた。ここには終始自らのふるまいを通して苦難する国民に寄り添おうとされた天皇ご夫妻の歩みが反映されており、口先だけの政府周辺の人々が到底なし得なかった人間的共感を呼び起こしている。今や既成宗教集団も既得権益を捨てて、ここから学びなおす必要があろう。

現代世界では「壁」による深刻な分断が進むとともに、それを乗り越えようとする模索も見られる。そこには当然利害の対立があり、相互批判の応酬があるが、危機意識は共有されてきた。結局ここには、さまざまな境界線を相対化する困難な道しか残されていないであろう。相対立する既成宗教集団も、同じ問いに直面する。この際むしろ積極的に自己相対化の可能性を選ぶことによって、分断の境界に架橋するモデルとして、新たな「宗教」像を切り拓くべきではないか。

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