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「生」のあり方を映す葬儀 「死にがい」悩む時代に

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2019年5月17日 12時52分

私事で恐縮だが今年になって親族の介護、看取り、葬儀を経験した。葬儀は喪主の希望もあって、また墓は東京、檀那寺は山形のためか家族葬、それも通夜を行わない一日葬であった。それでも葬儀社より病院で納棺式があるとの連絡で、家族総出で三角布や経帷子の死に装束を整え、四十九日までの心得をていねいにお聞きすることになった。

高齢者夫婦の二人暮らし、長男は地方勤務、一日葬と、現代の都会の葬儀の縮図のような光景だが、納棺だけは時間をかけて行うのだなと納得した。思い出すと5年前の自分の祖母の葬儀もそうだった。墓は愛媛で、家族は東京、長く介護施設にいたこともあって、親族のみの葬儀であった。筆者は、唯一の男の孫ということで親族の見ている前で葬儀社職員の指示のもとに納棺の一連の流れ、「おくりびと」を行った。

その職員に「30年ほど前の祖父の葬儀の時は、こうした納棺を行った記憶がない」と聞いてみたところ「地域それぞれの風習で行っていましたからね」とのこと。思い出すと、祖父の葬儀に到着すると、棺は玄関からでなく窓から入れるのだ、茶碗はどこに置くのか、仏さんの脚は曲がってていいのかと、大騒ぎをしながら、納棺が親族によって進められた。近所の御詠歌サークルによる見送りもあった。どうやらこの30年の間に納棺の所作が標準化されたようだが、映画「おくりびと」の影響もあるんですかねと、当の葬儀社の言葉が示唆的だった。

時代の趨勢から考えると葬儀の簡略化はこれからも進んでいくであろう。その中で納棺がクローズアップされていくのは興味深い。

内閣府2018年度の国民生活に関する世論調査によると、充実感が乏しいとする者の割合は60歳代以上が、他の世代と比して高くなっている。特に男性は3人に1人が充実感で苦戦している。充実を感じる時における男女の違いも気になる。60歳以上の女性は「ゆったり」「知人や友人」そして「家族団らん」である。男性は「趣味やスポーツ」「家族団らん」で、「ゆったり」は、その次だ。高齢者夫婦のすれ違いを感じさせる。

高齢者家庭で、やがて老いが進み、介護が必要となる。厚労省の16年の調査によると、37・4%が家族に依存せずに自宅での介護を希望し、施設入所も含めると3人に2人が家族の手を煩わせることのない介護を望んでいる。こうした傾向は女性の方が強いという。よく聞く「家族に迷惑をかけたくない」をどうとらえればいいのだろう。自律した人間像を見るには楽観的すぎるだろうが、孤独死の恐怖を喧伝したNHKの「無縁社会」キャンペーンとも違うような気がする。

人生百年時代と言われる中で、生きがいよりも、「死にがい」に、生き方よりも「逝き方」に関心が移るのは当然だろう。ターミナルケアの第一人者の柏木哲夫医師は「人は生きてきたように死んでいく」と述べているが、多様化と言われる割には標準化している葬儀スタイルも、私たちの生のあり方を映し出しているとするなら気になる。若いうちは生きがいで、歳をとったら死にがいに悩まなければいけない時代なのだ。

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