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宗教研究者のための倫理指針 より高度の価値追究を

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2019年7月12日 13時26分

6月8日に京都府立大で開催された「宗教と社会」学会の総会で、学会の倫理指針が定められた。今はどこの学会も同様の倫理規定を設けるようになったが、被調査者との関係が重要な役割を果たす社会調査を主軸とする研究者の多い同学会では、倫理の基準・方向性が示されることは喫緊の課題だった。

この倫理指針は公正と信頼の確保に始まり、差別やハラスメントの禁止など、5条からなる。他学会と比べて特殊なものではないが、「してはいけないこと」の列挙に、筆者はやや違和感を覚えている。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』を出すまでもなく、倫理的であることは人間の幸福と深く関わっている。しかし禁止や戒めばかりの倫理規定には、人間の幸福どころか、性悪説に基づき、他者を不幸にするとあなたにも不幸が訪れますよと、懲罰によって行動を制限しようとする負のイメージがつきまとう。

科学史研究の札野順氏は技術者倫理を、今述べた人間の悪・不正に注目し、やってはならないことを示す内向きの予防倫理と、人間の善や正しさを信じて優れた意思決定と行動を促す志向倫理に分ける。悪いことをさせない倫理ではなく、良いことをするとどんなに幸福になれるかという倫理だ。前者が批判されることを恐れて活動が萎縮するのに対して、後者は人々を鼓舞し、動機付けを与える効果を持っているという。

この二分法は企業の社会活動にも見られる。少し前まで大企業はCSR(企業の社会的責任)を掲げて、社会貢献活動を行ってきた。そこには企業性悪説に基づき、社会からの信頼・評価を少しでも獲得しようとする努力が見られた。しかし最近はCSV(共有できる価値の創造)といって、企業自らの営利追求と社会の幸福が両立する社会貢献が模索されている。味の素がアフリカの飢餓対策に郷土食の改良を行い、ポリエステルの住友化学がマラリア撲滅のために防虫剤入りの蚊帳を開発するなどが、その一例だ。

ここには売り手も儲かり、買い手も幸せになれるウィンウィンの構造がある。人間の幸福を前提とした志向倫理と合わせて、もし筆者が社会調査を念頭に倫理指針を作るなら、次のようになるだろう。

第一条、倫理的な調査者は、「客観性」を重要視するのは言うまでもないが、その名のもとに、調査者と被調査者とを分断・固定化するのではなく、両者の関係・協働性を重視しなければならない。

第二条、倫理的な調査者は、人権や自由意志を尊ぶことはもちろんだが、それは調査によって何も変えてはいけないことを意味するのではない。むしろ被調査者との関係の上に変わりゆく両者とのその未来を前提とし、かかる方向性を見定めなければならない。

第三条、倫理的な調査者は、調査データを当該調査以外の目的には使用しない。しかし調査を通して、新しい関係、新しい価値、新しい社会像を模索し、それが人々を幸せにするよう目指さなければならない。「価値観は人それぞれ」に萎縮・安住するのではなく、より高次の価値を追究すべきである。

いかがであろうか。

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