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武力象徴の「三種の神器」の剣 継承宣言、象徴天皇制の危機

東京大准教授 堀江宗正氏

時事評論2019年9月27日 13時01分

前回に続いて、天皇の代替わり儀式をめぐる政教分離関連の論点を見てゆく。今回は、天皇の「象徴」の内実の変換に注目する。

象徴天皇制は天皇が国政に関する権能を持たずに、形式的な国事行為のみで国民統合を象徴する体制である。だが、前天皇は戦死者慰霊や被災者慰安の旅を「天皇の象徴的行為」として位置づけ(象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば)、在位期間中に戦争がなかったことを強調した(平成最後の誕生日記者会見)。平和と平安への祈りと寄り添いが象徴としての務めだという「平成流」である。こうした活動は世論調査でも高い支持を得た(東京1月3日)。靖国神社を参拝しなかったこともあり、右派より左派に受容された。靖国の宮司が天皇に参拝要請したことを、左派系メディアのリテラは記事タイトルで「前代未聞の傲慢行動!」と批判している(8月15日)。

一方、識者は「平成流」に警鐘を鳴らす。井上達夫は慰霊の旅を国事行為を超えた、国民の支持を得るための行為とする(朝日5月3日)。高見勝利は、国民統合の状態を天皇が象徴するのではなく、天皇が行為を通じて国民を統合するようになったと指摘する(同5月2日)。山口輝臣によれば、昭和40年代は天皇と神道が関わること自体が問題視されたが、前天皇は宮中祭祀も「国民の安寧と幸せを祈ること」として象徴の務めに含め、宗教との関係を変えたという(日経2月21日)。渡辺治は、能動的な象徴天皇像が当然になると政治は天皇を利用するし、国民も受け入れやすくなると危惧する(朝日5月28日)。

代替わり儀式にも国民統合の意味が込められる恐れがある。東京関東キリスト者平和の会は「神となる」儀式による国民統合の企てに反対した(4月15日)。共産党は神話に基づく剣璽等承継の儀を国事行為とすることに反対した。剣璽は皇位のしるしとして天照大神から伝わるという「三種の神器」の剣と勾玉である。天皇は神の子孫として統治するという万世一系の神話による。中でも剣は武力の象徴と解されてきた。

これに対し、政府は前例踏襲で問題ないとする。だが中島三千男によれば明治の前は密教的な灌頂がおこなわれていたという。大正天皇の即位前に「剣璽渡御の儀」が制定されるが、戦後は廃止された。剣璽等承継の儀は昭和天皇死去当日に閣議決定、実施されたため公的議論はなく、実は神社界からの働きかけがあった(赤旗3月31日)。当時の官房副長官石原信雄は「渡御」を「承継」とし、国璽・御璽も並べて「等」として宗教色を薄めたという(NHK政治マガジン2018年3月5日)。政府は、神器は「皇位と共に伝わるべき由緒物」と皇室経済法に定められており宗教的意義がないと主張する。

新天皇は憲法を守るという表現を使わず、即位後の一般参賀で剣璽等承継の儀に言及した。政権の意向によると推測される(リテラ5月1日)。天皇の国事行為には内閣の助言と承認が必要だからである。国民の前で憲法に言及せず、武力による支配を象徴する剣の継承が宣言された。平和憲法の危機は象徴天皇制の危機につながりかねない。

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