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公的な「場」としての寺社教会 被災地復興で生きる宗教的理念

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2019年11月8日

台風19号の爪痕が残る福島県いわき市への3度目の訪問で、原稿を書いている。最初は広野町田んぼアートの稲刈りに向けて、台風の去った翌日に常磐線・常磐道ともに不通のところ、東北道と北関東道からいわき市に入った。10月13日の朝のニュースは千曲川流域の被害が中心で、いわき市のことは知る由もなかった。しかし道から見える風景――水没した道路からコンビニの屋根上の看板だけが出ているなど――に触れ、その被害の深さに言葉を失った。

いわき市には2011年夏以降、調査に入り、特にここ数年は隔月くらいで赴き、3月に星野英紀・大正大名誉教授との編著『東日本大震災後の宗教とコミュニティ』を上梓することができた。13日と14日の報告を同書執筆者に行い、その数名と22日に泥かきのボランティアと調査でお世話になった寺社等のお見舞いをさせていただいた。

断水の地域にいち早く給水車2台を教団本部から受け入れた天理教磐城平大教会、被災された家庭の子ども一人ひとりのニーズにあった学用品などの集積・提供地となっている浄土宗の菩提院、断水で延期となったハロウィンの準備を整え子どもたちを待つばかりの久之浜の諏訪神社など。東日本大震災の復興の中で培われたコミュニティにおける宗教の役割、それは宗教施設の有する場の公的な性格、人々のつながりを促進する働きかけ、その背景にある宗教的な理念などを再確認する一日だった。

こうした利他の精神と行動は宗教者に限ったことではない。断水地域で高齢者が玄関外にバケツを置いておくと区長や班長が水を汲んで来てくれる、とは諏訪神社宮司さんの話。雨でボランティアセンターが受け入れを停止すると、瞬時にSNSでマッチングをしてくれるのは先の田んぼアート主催者の市川英樹氏だ。彼は震災後の移住者で、農業経験の全くない中、浜通り3カ所の田んぼアートで、オリンピックの来年、30万人を福島に迎え入れるべく仲間と3年越しの準備を重ねている。

ボランティアの休憩時に、米袋が持ち込まれた。田畑が水に浸かり、収穫ができないところへの陣中見舞いだ。農家が自らの農産物が泥水に沈んだ姿を見つつ、届けられた米を前にして抱く感慨は、筆者ら都会人には想像を絶するものなのだろう。

氾濫した夏井川沿いに住む老人が無料開放された温泉で筆者につぶやいた。「いわきは雨が少なく住みやすく、でも何だろうね、楽をしすぎたのかね」。そこに旧知の仲だという温泉の支配人が着衣のまま浴場に来て、ひざまずいて労いの声をかける。

今日、スコップを持っていたら「ボランティア? ありがとう」と宿まで車に乗せてもらった。全壊した畑でわずかに残った芋の入った豚汁をいただいた。かかる助け合い、網の目のようなネットワーク、自然への畏敬と感謝をたった数日間の滞在だが、いわきで感じることができた。そしてそれは信仰に基づくものと地続きのような気がする。

このところ毎年訪れる「数十年に一度の豪雨」など天災による被害に心が痛む。ただそこから生まれる人々のつながりと助け合いに目を凝らしていきたい。

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