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価値観の衝突は心の栄養剤 共生社会へ小さな実践を

大阪大教授 稲場圭信氏

時事評論2020年1月24日 13時38分

「大学共通第1次学力試験」に代わって1990年に始まった「大学入試センター試験」は、この1月18、19日に幕を閉じた。来年1月から「大学入学共通テスト」に移行するが、英語民間試験に続き、国語と数学の記述式についても延期することが決まった。

試験の仕組みをめぐって迷走が続いている中、1月17日、阪神・淡路大震災から四半世紀という節目を迎えた。この20世紀から21世紀を跨いだ期間、社会は大きく変化した。自然災害も頻発し、単独世帯は2割から3割に増え、私たちは無縁社会、格差社会、リスク社会、災害頻発社会に生きている。分断され、他者と公的私的な諸課題をシェアすることが困難な社会にあって、共生という言葉も聞かれる。私たちはどのように生きていくのか。

人間が生きていくうえで重要な「場」として、生命科学を専門とし場所論を提唱する東大名誉教授の清水博(『場の思想』)は「生活の場」と「人生の場」という2種類の場があると論じる。「生活の場」とは、即興的な生活体験がリアルタイムにおこなわれる場。「人生の場」は多様な「生活の場」におけるさまざまな生活体験を反省的に振り返ってその生活体験を編纂し、人生という個人の歴史を編成する「場」である。この編纂というプロセスにおいては、「人生はかくあるべきである」という哲学や「人生をこう生きたい」という願望があり、さらに、創造には「世のため、人のため」という志や使命感が存在すると主張する。

時代の変革、新たな社会の創造において、共生に通じるこの志や使命感はどのようにして醸成されるか。清水は、異質な世界から自分の世界を眺めることや、考え方や文化的背景の違う人々と付き合うことの重要性を指摘する。これらにある「場」や異質な他者との交流の重要性は非日常的な場、例えば被災地の支援の現場での関係性にも通じよう。外から支援に入るボランティア、よそ者、異質な他者が関わることで「場」が変わっていくのだ。

一方で、「場」が特定の人で結束すると、いわゆる閉鎖的な共同体の力学で物事がきまっていく。異を唱える人の声は消される。「場」特定の人たちの共通性によって設定された関係性には内輪主義、部外者の排除、個人の自由の制限、規範の強制などがある。仲間集団の閉鎖性は、自国中心主義、社会の分断化も生んでいよう。21世紀、このような排他的な動きが世界各地で起きている。

社会の枠組みが大きく変容する今、「共生」は世界的なテーマである。共生社会にむけて、理想主義と揶揄されようが、すぐに成果が見られなくとも粘り強く取り組みを継続する姿勢が大切ではないか。さまざまな共同作業を通じ、人々が互いの価値観の衝突を乗り越える経験をする、価値観の衝突は心の栄養剤だ。

共生社会にむけて、いま居る「場」での自分なりの社会貢献が求められている。日々の営みのなかで小さな実践を積み重ねようという一人ひとりの意識によって、社会も変わっていく。試験の仕組みよりも、苦難にある人に寄り添う取り組みを考えるところから社会を見ていくことが重要ではないだろうか。

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