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「退路」断ち被災地移住 無視できない家の墓の問題

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2020年2月14日 13時14分

1月末に福島県川内村で開催された極寒キャンプなるものに参加してきた。誘ってくれたのは主催者の一人で会場となったいわなの郷に勤務する関孝男氏だ。暖冬で極寒とまではいかなかったが、皆で火をおこしてバーベキューを愉しみ、星空観察をし、テントに宿泊。氷点下4度の朝を迎え、生け簀に入っていわなの掴み取りをし、さばいて、串焼きにする。都会暮らしの筆者にとっては何とも贅沢な2日間だった。

川内村は原発事故で全村避難を余儀なくされ、筆者は2014年、当時村内で瞑想指導などのボランティアをしていた大下大圓師の同行で初めて村を訪れた。その後、いわき市を中心に浜通り地域をさまざまな視点から考える市民団体・未来会議で、筆者は先の関氏と出会った。

当時、未来会議はワークショップ形式で話したいテーマごとに参加者がそれぞれ集まって議論していた。関氏が掲げたテーマは「幸福」。70~80人はいたであろう参加者のうち彼のもとに集まったのは筆者を含め2人だった。しかし話すうちに彼が埼玉県からの移住者で、途絶えそうな炭焼きの火を継承しようとしていることを知って、何度か彼を川内村や東京で開催される福島物産展に訪ねるようになった。

極寒キャンプのご縁で関氏のような移住者、移住を検討するボランティア従事者や各地を回るキャンパーと懇談する機会があった。被災地で活動する人と話していると、このコラムで何度か触れたように、宗教者と話しているかのような錯覚に陥ることがある。それは彼らの求道心、召命感(使命感)、利他意識が、そう感じさせるのだろう。

懇談では、移住先での困難な状況も語られたが、彼らが土地の伝統文化に敬意を払っているのが判った。関氏は川内村で炭焼きにたどり着いた。そもそも彼の勤務地が「炭焼場」という地名なのだ。

しかし放射線量の関係もあって、炭を出荷できないのみならず、いわなを焼く炭すら購入しなければならない。かかる逆境で窯の火を絶やさないという彼の決意を応援したい。

同じように彼らが古老の知恵に一目置いているところも面白い。関氏は川内村で炭焼きの師匠と出会い、別の移住者は「老人は変える勇気を持っていなかっただけで、しかし全てを知っている」と断言する。筆者も経験があるが、古老と一緒に歩き、山々や雲といった自然の中に、また農作業を通じてとらえている世界は、筆者らのそれとは別ものなのだと感じる瞬間がある。そして私たちは、そこから異なる時間の流れや空間の把握の仕方、人間関係の作り方を学ぶことできるという印象を持っている。

移住者は「こちら」の世界や自身に対して違和感があったのかもしれない。そこから脱して見ず知らずの土地に移り住むことには、「こちら」の世界をしがみついている筆者からすると驚嘆である。ただ退路を断ったかのように見える移住者ですら、家の墓の問題は悩ましく無視はできないようだ。何となく筆者は少しホッとすると同時に、そこまで私たちを拘束する墓とは何だろうという思いに至ったが、これについては稿を改めたい。

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