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新型肺炎、陰謀論と差別感情 恐れるべきは精神的感染症

東京大准教授 堀江宗正氏

時事評論2020年2月28日 13時54分

新型コロナウイルス感染症が広がっている。国内で確認された感染者は2月18日時点で615人(朝日新聞のホームページ)。しかし検査対象者が限られているので氷山の一角だろう。2月中旬の日本の感染者は約4100人とする試算もある(フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議)。

WHO(世界保健機関)によると「8割は軽症、致死率は2%」でSARSやMERSほど致命的ではないという。だが仮に日本人全体が感染したとすれば約25万人の死者が出る計算だ。東日本大震災の死者・不明者数や年間自殺者数の約2万人の10倍である。中国初の大規模調査では、80歳以上の致死率は15%と高い(BBC、2月18日)。

有効な治療法とワクチン開発まで蔓延のスピードを抑えることに社会全体で取り組むべきだ。

これについて、宗教が直接できることはほとんどない。だが寺社等の祈願メッセージは写真付きでSNSに報告され、好意的に受け止められている。エルサレムの「嘆きの壁」でも雨の中で1時間にわたる異例の祈りがおこなわれた。他方シンガポールや韓国では教会が感染の場となった。宗教的集会の自粛は広がるだろう。永平寺別院長谷寺では参禅会を中止している。

「宗教」に限定せず、広く人々の想像力や「信じやすい心」に目を向けると、新型肺炎という災禍は、私たちの精神性(スピリチュアリティ)を推し量る尺度となるかもしれない。今のところ、陰謀論、差別との関連は見逃せない。武漢ウイルス研究所での「機能性獲得研究」(感染能力を獲得させる実験)が発表されていたこと、インド人研究者がSARSとエイズのウイルスの合成だと主張したことから(その後、論文は撤回)、流出説、生物兵器説がまことしやかに説かれる。中国人研究者は類似点が他のウイルスにもあり、また1200箇所の遺伝子変異を人工的に起こすことは不可能だと反論した(東洋経済、2月12日)。感染経路が海鮮市場だということを覆すのも難しい。

しかし、兵器説はくすぶる。時事通信は統一教会系のワシントン・タイムズの兵器説を引用する形で両論併記し、人々の注意を引きつけた(2月10日)。反共、反中の政治姿勢は、中国人への差別感情に発展している。春節の時期には中国人渡航禁止の声が強まった。オリンピックや習近平主席来日への影響から検査や入国拒否に消極的と推測される安倍政権に、支持者だった反中的な人々(百田尚樹氏)も批判に転じた。自民党コロナ対策本部は人工兵器説や中国人排除を唱える議員(杉田水脈、青山繁晴両氏)を入れる形となった。

スピリチュアルなユーチューバーたちは、兵器説と旧世界秩序への揺さぶりという陰謀説に加え、地球の次元上昇(アセンション)に伴う人口調整、自然破壊のカルマなどを唱える。この種の言説は、重症者や死者とその遺族を傷つける。

私たちは陰謀論、差別感情、被害者断罪の精神的な感染症こそ恐れるべきではないか。そして、各国政府は陰謀論の要因となる情報隠蔽体質を改め、専門家の政治的な利用も排除も慎み、民族間の差別より連帯をうながすべきだろう。

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