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全線開通した常磐線 なお残る「景色の不自然さ」

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2020年3月27日 16時13分

3月14日に全線再開通した常磐線に乗って福島県双葉郡に行ってみた。クラウドファンディングによって再建されるという双葉町の初發神社と浪江町の両竹諏訪神社に前々から参りたいと思っていたからである。

今回再開通したのは富岡駅から浪江駅までの区間。せっかくだから富岡の手前の木戸のコミュニティスペース「交民家」に泊まって運営者のお話を聞き、近所の交流居酒屋である結のはじまりで食事。翌朝はボランティアから移住者となった男性と始発に乗っていわき駅前で珈琲を飲んだ。

9時台の電車でいよいよ再開通の区間に向かった。新型コロナウイルス拡大防止で全てのイベントは中止・延期になっていたが、いわき市を越えて双葉郡に入ったあたりから、駅には「つながる双葉 おかえり常磐線」などの横断幕やピンクのタオルを持った出迎えの人々が集まり、車両を迎えた。竜田駅では楢葉町のゆるキャラゆず太郎が登場し、夜ノ森駅では中止となった桜まつりで舞うはずだったよさこいが披露された。目指す双葉駅ではホームに人が溢れ、特急列車到着時には標葉(大熊・浪江・双葉・葛尾の旧郡名)せんだん太鼓が打たれた。

筆者は調査やボランティアで月に1回くらい浜通りに行くが、多くはいわき駅周辺か、レンタカー使用なので、実は常磐線に特別な思い入れがある訳ではない。しかし車窓から見える空き地に再開通を祝うハンカチがたなびく光景を見た時には涙がこぼれた。

さて双葉駅で降り、先の両神社に参拝した。震災の日に50人が夜を明かしたという諏訪神社からは、冷たい雨で黒く濁った太平洋と巨大な建造物が見えた。後で判ったが、建設中の東日本大震災・原子力災害伝承館である。初發神社は春以降に予定されている式年遷宮祭に向けて工事中であった。両神社とも修復の白木も生々しく、「再建」というには途上の感が否めなかった。

初發神社から国道6号線にある慰霊碑に向かい、街中をぐるっと回るとその思いは一層強くなる。あちらこちらに通行止めの表示があり、崩れた家屋が放置され、中には山門が倒壊したままの寺院もあった。後にグーグルマップで寺院を調べたが、出てこない。寺院名を入力して初めて地図上に表示されたが、そこには「閉鎖中」と記されていた。つまりこの寺院は通常の検索では地図から抹消されているのである。

こうした複雑さを、地元の方々は痛いほど感じているのだろう。双葉駅に着いて、知り合いの地元移住者に「おめでとうございます!」と声をかけたら、「おめでとう? あっ開通のこと? 避難指示一部解除のこと?」と返答をもらった。確かに駅周辺を少しでも見て回った後なら、軽々しく祝意を伝えられなかったに違いない。この日、昼食をご一緒したいわき市内の寺院副住職は「うれしい。その半面、この区間で見られる景色の不自然さもみんなに伝えたい」とテレビインタビューで語っていた。

車窓からだけではもちろん、レンタカーで国道を走っていただけでは判らないことを、筆者はこの全線再開通で、きっと少しずつ学ぶことができるのだろう。

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