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新型コロナ禍後の世界 「いのち」重視の社会を期待

大阪大教授 稲場圭信氏

時事評論2020年4月24日 08時59分

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう。この感染症との地球規模での戦いにあって、コロナ禍の後の社会についての言説がある。地政学的リスク分析が専門のイアン・ブレマーは、9・11やリーマン・ショックは世界を揺るがしたが、今回の感染拡大が与える影響はその比ではないと指摘する。世界秩序の機能不全、脱グローバル化、自国第一主義の高まり、格差のさらなる拡大。非常に暗い、ネガティブな見解だ(日経、4月16日)。

一方で、ポジティブな言説もある。『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイアモンドは、この感染症との戦いには国際的協力体制が必要と、共生社会への希望を語る。「世界的な問題を解決するモデルになり、核や気候変動、水産資源の保護といった課題に国際社会が協調して取り組む契機になるのが最良のシナリオだ」(日経、同13日)

フランスの経済学者・思想家ジャック・アタリも同様だ。共感、利他主義への転換を呼び掛け、「生きる」ために必要な食料、医療、教育、文化、情報、研究、イノベーション、デジタルなどの産業、すなわち「命の産業」に重点をおく「ポジティブ経済」への転換のチャンスと社会の行方を明るく展望する(NHKEテレ「緊急対談 パンデミックが変える世界」同11日)。

世界の歴史は、戦争、自然災害、疫病など人類の危機であふれている。しかし人類の営みは連綿と続いてきた。今回のパンデミックも何度かの波が過ぎ去れば元に戻るだろうか。否、戻れないだろう。多くの人の世界観、人間観、死生観に大きな影響を与えている。意識変容、行動変容、リスクへの対応の変容は、ライフスタイルも大きく変容させる。新たな時代が始まろう。マックス・ウェーバーの「エートス(行動様式)」、そして、ロバート・ベラーの「心の習慣」しかり、容易には変わらないもの、それが、このコロナ禍で変わろう。

14世紀の黒死病大流行が中世ヨーロッパの転換点となり、ルネサンスや宗教改革につながった。教会の権威が失墜し、ボッカッチョの『デカメロン』に描写されたように刹那的、享楽的に生きる人もいた。一方で「メメント・モリ(死を想え)」、神への直接的な信仰心が深まる人もいた。

今、生死をさまよっている人がいる。命を救う現場で尽力する医療従事者がいる。生きるために必要不可欠な部分を支える職務を続ける人がいる。また、仕事がなくなり生活困窮状態の人も出ている。一方で、新型コロナウイルス感染拡大防止のために外出自粛でテレワークやウェブ会議をする人が急激に増えた。何が不要不急で、ムダなのか。コロナ禍が社会、組織、個人に仕分けを強いる。何が本質的に大事なのか。

新海誠監督の映画「天気の子」の結末では、関東は大雨が何年も続き、都心の海抜の低いところ大部分は海に沈むが、日常生活も続く。コロナ禍は、第2波、第3波があっても、いつかはインフルエンザのように共生していく。しかし私たちの生きる社会は変わる。利益効率重視の社会ではない、「いのち」重視の社会だ。宗教には世直しの思想もある。「いのち」を尊ぶ教えは、私たちの生き方を救けてくれるであろう。

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