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コロナと「新しい生活様式」 分断超え人間関係構築を

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2020年5月15日 11時10分

本稿執筆の5月10日、一日の新型コロナウイルス感染者数は下降し、終息にむかっているかのように見える。だが社会全体は依然厳しい状況で、宗教界も同様である。行事の中止や施設の閉鎖などが相次ぎ、ある教団関係者の「この事態が終わっても、足が遠のいた信者がすぐに戻るかは判らない」というつぶやきに接した時、筆者はことの重大さと長期にわたる影響に改めて気づかされた。

政府の専門家会議が5月4日に「新しい生活様式」を提言した際、60歳以上の方はどこかで聞いたことがあると思ったはずだ。戦前の農村経済更生運動、敗戦まもない頃の生活改善普及事業、その後の新生活運動など、一般に「生活改善運動」と総称される国家事業がこれまで何度かあった。

戦後の生活改善運動は宗教界と無関係ではなかった。民主化や合理化のもと、迷信や虚礼廃止が唱えられ、冠婚葬祭、特に結婚式や葬儀の簡素化が行われた。筆者は長野市のある地区の成人式の写真集を見たことがあるが、生活改善運動で着物姿が皆無となり、全員が平服で写真に収まっていた。

生活改善の対象は多岐にわたり、農業改良や衛生管理のような「便利」に関することは定着しやすく長続きするが、人間関係や価値観に関わることは長続きしない。先の成人式の平服化も数年ほどで着物姿が現れ、5年ほどで元に戻っている。上からの指導では便利なものは受け入れられるが、人間関係や価値観を変えるまでには至らない。

今般公表された「新しい生活様式」は「3密」の回避をはじめとする外形的な諸条件である。感染者数が増えれば守られるが、減れば緩む(緩めなければならない)。しかし私たちは知っている。新型コロナウイルスは、たぶん長期にわたる人間関係や価値観を左右するものだということを。これに抗する、いや付き合うためには、上からの指導ではなく、私たち自身が下から自らの生活様式について創意工夫を凝らしていかなければならない。

「新しい生活様式」は移動の制限や身体的距離の確保を指示する。だが重要なことはそうした分断を超えてどう私たち自身が関係を維持していくかだろう。SNSだけでなく、前時代の電話や手紙の力を再確認した人は少なくないはずだ。

「新しい生活様式」はエチケットやマナーを強調する。確かに他者への配慮は大切だ。そこをもう一歩進めて、この事態だからこそ生じる苛立ちや憎しみを心ない言葉や書き込みで表していないか注意したい。

「新しい生活様式」は消費や労働の新しいスタイルを提案する。確かに最初こそ戸惑いのあったテレワークや買い物の不自由さにも慣れた感がある。ただ忘れてはいけないのは、こうした事態でなくても不自由さを抱えた人やステイホームと言っても還る家のない人や、働かなければ社会が回らないエッセンシャルワーカーがいるということだ。

第二波も予想されている感染症と、その都度出される上からの指導との狭間で翻弄されてはいけない。「会えないこと」や死の意味も含め、私たち自身が自らの人間関係のカタチと価値観を模索していく必要があるのだろう。

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