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早すぎるトリアージを許すな 人間性の放棄につながる懸念

東京大教授 堀江宗正氏

時事評論2020年7月10日 10時39分(2020年7月13日 10時07分更新)

新型コロナウイルス感染症は、あたかも社会的弱者を狙い撃ちするかのように拡大している。高齢者、持病のある人の命を短期間で奪い去ることはよく知られている。

それだけでなく、特定の社会集団への犠牲の偏りも明らかになっている。米国ブルッキングズ研究所によれば、黒人やヒスパニックの死亡率は、年齢によっては白人の6倍以上である。その背景には、密集した生活や医療へのアクセスの困難さがある。

国内でも感染拡大防止のための外出や移動や人の密集の制限の結果、サービス業の広い範囲で倒産・廃業・失業が起こり、未曾有の経済危機が訪れつつある。ネットカフェの封鎖で住む場所を失った人もいる。経済的格差がさらに進み、特定の貧困層の感染・死亡リスクが高まるだろう。

こうした社会的弱者への手当ては、人道的観点から正しいだけでなく、感染拡大防止にもつながるので合理的ですらある。しかし、イタリアやスペインの病院では不足している人工呼吸器を高齢者に装着しないという判断がなされている。

このような判断はトリアージ(選別・分類)と呼ばれる。これは重症度が高くかつ回復の見込みがあるものを優先的に治療することを指す。懸念されるのは「早すぎるトリアージ」である。日本の救急医療におけるトリアージは重症度で6段階に分け、重症度の高い人を優先的に救命する。

もし年齢で区切られるなら、高齢者は救命可能性があっても最初から見捨てられる。生命の危機に瀕している人こそ助けなければならないという平時の人道的感覚が崩れ、高リスク者こそ、リスクがあるというだけで早期に切り捨てるべきだという異常な判断が海外の現場では横行していたと言える。

国内でも、まだ感染していない高リスク者に、事前に治療を諦めるよう「自己決定」を迫る動きが見られる。竹下啓らの生命・医療倫理研究会は患者の同意を尊重しつつ、重症度より救命可能性を優先する人工呼吸器の配分のルールを作った。そこにはすでに装着している人からの取り外しも含まれる。自らも全身に癌が転移している医師の石蔵文信は「集中治療を譲る意志カード」を作り、普及を呼びかけた。障害や病気を理由に人工呼吸器を装着しない方針は、米国アラバマ州、英国、ルーマニアなどで策定されかかったが、抗議を受け取り下げられた。

障害者インターナショナル日本会議は「新型コロナウィルス対策における障害のある者への人権保障に関する要望」を総理大臣に提出した。人工呼吸器を装着する舩後靖彦・参議院議員は「命の価値は横一列」とし、必要な人に付けられる体制の整備を訴えた。NHKの番組「バリバラ」では人工呼吸器を装着する障害者が、ヘルパー不足、施設での集団感染が起きている現状で、命の選別の議論が先行するのは、優生思想の復活だと警鐘を鳴らした。

新型コロナウイルス感染症は「弱者を狙い撃ち」する。その拡大に乗じて、なし崩し的に弱者を切り捨てる動きが見られる。それを許すことは、道徳性の崩壊だけでなく、私たち自身の人間性の放棄につながるだろう。

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