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知識あふれても知恵ない時代 コロナ禍、安全・安心は…

大阪大教授 稲場圭信氏

時事評論2021年1月15日 13時12分

2020年は世界中がコロナ禍に翻弄された。年が明けても世界的に感染症の猛威は続いている。安全も安心も不在だ。『広辞苑』(第七版)によると、安全は「安らかで危険のないこと。平穏無事。物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと」、安心は「心配・不安がなくて、心が安らぐこと」とある。安全は科学的な知見やエビデンス、すなわち専門知にもとづいて保証されている場合で、安心はその安全の保証が必ずしもない場合にも、そこに「信頼」がある状態と言えようか。

宗教において安心につながる信頼は救済論という公正世界信念と関連がある。善い行いは報われ、罪は罰せられる。世界はそのように公正にできているという信念だ。善行や悪徳行為にもとづいて救済が決まってくる因果応報、神の裁きへの信念はこの世における実践的態度に影響を及ぼす。救済論における信頼は、自らの行いを律することによって安心をもたらす。

しかし、信頼が集団的なものに強化されれば同調圧力ともなりうる。コロナ禍にあって自粛警察も誕生した。専門家の意見や政府見解に国民が右往左往する。PCR検査、ワクチン、緊急事態宣言に対する考え方で民意も分断された。

21世紀、分断がひとつのキーワードともなっている。多種多様な声、相反する考え方がある今、わたしたち一人ひとりは何を信じて意思決定し、行動すればよいのだろうか。人類学者のティム・インゴルド(『人類学とは何か』)は、「これほど知識が溢れているのに、それが知恵に結びつかない時代は、実際これまでの歴史にはなかった」と指摘し、科学によって伝えられる知識と、経験と想像力の溶け合った知恵のバランスを回復することの重要性を訴える。

一方、哲学者のナオミ・ザック(『災害の倫理』)は、以下のような価値にもとづく道徳原理を示し、危機に備える重要性を説く。

①人の命は、本質的に価値がある。②すべての人の命は平等に価値がある。③すべての人には他の人に傷つけられない等しい権利がある。④すべての人は、人以外の力により傷つけられることから守られる権限を与えられている。

道徳原理に従うことは結果に関わらず義務であるという考え方を採るのか、よい結果という功利主義を採るのか。その緊張関係にあって最終的にどのような選択をするかは、参加者とリーダーの徳に対する信頼に依拠するだろうとザックは述べている。

マックス・ウェーバーは「倫理的預言」と「模範的預言」という宗教の2類型を提示した。「倫理的預言」は神の意志に基づく倫理的「義務」として神への服従を要求するが、「模範的預言」は、宗教的リーダーが自らが体得したものを同じ道を歩もうとする人びとにロールモデルとして生き方を示す。そこにはインゴルドの言う知恵があろう。

『広辞苑』にもどろう。「安心(あんしん)」の次に「安心(あんじん)」の説明もあった。「信仰により心を一所にとどめて不動であること。阿弥陀仏の救いを信じて一心に極楽往生を願う心。宗派の教法の根本眼目」とある。本年、安心は得られるだろうか。

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