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東日本大震災の「人間復興」 共に「すごす関わり」に転換へ

大阪大教授 稲場圭信氏

時事評論2021年3月12日 10時54分

未曽有の大災害と呼ばれた巨大地震、津波、原発事故から10年たった。ある人は家を失い、大切な人を失い、仕事を奪われた。避難所、仮設住宅、災害公営住宅、再建した家と住まう場を転々とした。この間の暮らしはどうであったか。

関東大震災への対応として経済学者の福田徳三は、生活、営業、および労働機会を中心とした「人間復興」を提唱し、道路や建物などハード面よりもソフト面を重視した。

東日本大震災では復興の方針として「創造的復興」が掲げられ、大規模な復興予算が投じられた。三陸縦貫自動車道や巨大防潮堤の建造などハード面の整備が進められてきた。震災伝承施設も建設が続き、270施設を超える。なし得たこともたくさんある一方で、なし得なかったこと、課題も多い。巨大土木事業に対し、復興災害や惨事便乗型復興といった言葉で復興政策に対する批判もある。

東日本大震災で特に被害が大きかった岩手、宮城、福島の市町村に対する調査では、7割の首長が「創造的復興」ができたと回答する一方で、9割近くがまちの将来に不安を感じると回答した(朝日新聞、2月28日)。少子高齢化、人口転出、インフラの維持管理など不安要因は多い。そして、人間復興に対しての支援は行き届いていない。

世界は新型コロナウイルスに翻弄されている。誰もが感染する危険性があり、安全地帯にいる自分と危険な状況にある誰かという分断が無くなった。東日本大震災の時と決定的に異なる。安全地帯から困難な状況に降りていき、復旧復興をめざして手を差し伸べるのではなく、同じ心配を抱える中にあって共に生きる。「めざす取り組み」から「すごす関わり」への変化だ。

コロナ禍にあって宗教者がSNSやZoomなど様々なツールを使って寄り添い型の支援をしている。その必要性は宗教者の側にもあるのではないか。困難な状況にあって自分たちの使命が何なのかが問い直された。そして共感のあり方が根本的に転換した。大変な人に対する支援ではなく、共に生きていく「すごす関わり」だ。コロナ禍以前から多くの地域で高齢化や過疎化が進み、今後の存続を心配する寺院住職もいる。今生活が立ち行かない人、先行きが見通せずに不安を抱える多くの人たちと同じ世界に生きているのだ。

2017年に実施された「将来に向けた防災意識・行動・価値観調査」によると、人の助けが必要となった際に手助けをしてくれる相手として、家族・親族を挙げた人が9割、友人知人を挙げた人は3割以下、「遠くの親戚よりも近くの他人」といった関係は見られないという(『危機対応学』)。20年後には単身世帯が4割に達すると予測される日本社会で、サポートのネットワークから孤立する人が増加する。どうしたらよいのか。

「人新世」という危機の時代に、専門家任せにするのではなく、社会的に共有されるべき「コモン」を、市民の小さな運動の延長線上に実現するという希望もあろう(『人新世の「資本論」』)。政府が、誰彼がしてくれるのではない。人間復興は、私たち一人ひとりの共にすごす関わりにかかっている。

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