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米国で広がるアジア憎悪 「他人事感覚」超えるべき問題

東京大教授 堀江宗正氏

時事評論2021年3月26日 11時46分

米国でアジア系住民への憎悪犯罪(ヘイトクライム)が続いている。アトランタでアジア系女性が犠牲になった無差別銃撃事件で注目されたが、その前にも急増していた。東本願寺ロサンゼルス別院への放火・破壊行為もいちおう報じられたが、事件当時の2月下旬の扱いは小さかった。もし東アジアの文化的象徴として寺院が狙われたのなら、小さな事件ではない。

反アジア系の動きは、新型コロナウイルス感染症拡大と並行して欧米で広まった。Yulin Hswenらによると、昨年3月にトランプ前大統領が「中国ウイルス」という表現を使うと同名のハッシュタグが立ち、反アジア的ツイートが増えた。

バイデン大統領は1月に予防策を講じる大統領令を出した際、暗にトランプ発言を非難した。NBCニュースによるとアジア憎悪犯罪は2019年に49件あったが20年は122件に急増した。非営利団体Stop AAPI Hate(アジア系米国人・太平洋諸島人への憎悪を止めろ)に寄せられた憎悪事例は、20年3月以降の1年間で1600件以上。スカイニュースによると英国でも20年の1~3月のアジア憎悪犯罪が3倍になった。フランスでは今年1月「私はウイルスではない」というハッシュタグが立ち、抗議の声が上がった。

イスラーム過激派のテロ事件後のイスラーム恐怖と違うのは、アジア系の宗教的背景が多様で、中国系には無宗教も多いことだ。それがかえって米国の保守的キリスト教徒にとって、無宗教者による米国社会の侵食と映る可能性もある。

アトランタ銃撃のロング容疑者の父親はかつて青年牧師だったほど信仰にあつく婚前性交渉を禁止していた。容疑者は性依存症になった自分を誘惑する存在を抹殺したいという動機からアジア系女性を銃撃した。これは憎悪犯罪でない証拠ととらえられがちである。冷泉彰彦などはトランプ氏の中国ウイルス発言と無関係だと強調する。

しかしFlora Tangは宗教的動機に加え、アジア系女性を一方的に性的と見る人種差別と女性嫌悪の混ざった犯罪だとする。容疑者はインスタグラムで銃と神への愛を表明し、父親とバプテスト教会に通っていた。前年9月に参加した教会の説教にはフェミニズム批判もあった。事件後、教会は犠牲者を追悼し、容疑者を破門した。また多くのキリスト教指導者は事件を非難し、#StopAsianHate(アジア憎悪を止めろ)運動にも参加している。

一方BLM(黒人の命を大切に)運動ほど盛り上がっていないという声もある。アジア系は勤勉で不満を言わない「模範的マイノリティ」という意識ゆえに声を上げない、「名誉白人」という意識ゆえに自分事だととらえない、コロナを隠蔽した中国人が悪くて自分たちは悪くないと考える、などが理由である。

六辻彰二は、日系人の被害数は少ないものの、在住者の割合が低いためで注意が必要とする。シャノン・マグレンテはこうしたアジア系内部の他人事感覚を超えて人権問題ととらえるべきだと訴える。結節点として宗教の役割は小さくない。日本の宗教(研究)者も在米日系宗教の歴史を振り返りながらこの問題に取り組むべきだろう。

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