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「無駄」のもつ重要性 効率では置き換えられない

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2021年4月23日 12時31分

4月17日の東京新聞に「コロナ禍全人的学び喪失」という見出しがあった。記事を書いた蒲敏哉社会部記者の意図は大学生の在籍延長と支援を求めるものであるが、彼は大学生にとって必要なのは既成概念を疑い、人間力を養うことで、それには友人との対話やサークル活動や人を好きになり悩むことだという。オンライン授業を評価しつつも、大学はそれだけではないだろうというのだ。

大学が全人的学びの場かどうかから議論が分かれそうだが、サークルや恋愛は別に大学でなくてもいくらでもできるという反論も予想される。そして各種アンケートを見るとオンライン授業への評価は意外に高い。早稲田大では有益なオンライン授業があったと回答したのは92%で、良い点として自分のペースで学習できる、復習に取り組みやすいがあげられている。東北大では今後も全て、あるいは主としてオンラインを希望する学生が23%で、対面との併用と合わせると68%がオンラインの意義を認め、内容理解・復習の容易さがその理由だという。

一言でいうとオンラインは効率がいいのだ。大学教員としては、いかに教室で非効率的な講義を展開していたかと耳の痛い結果でもある。ただ先の蒲記者ではないが、教育の意義をはかる物差しは効率性だけではないはずだ。翻訳があるのにあえて原書で読んだり、音読したり、教員の無駄に見えるおしゃべりや沈黙など、卒業してから、決して懐かしさだけではなく、その意味を判ることもある。

翻ってオンライン宗教行事はどうだろう。コロナ禍の自粛要請で宗教の現場も信者さんも大変なご苦労をされていることと思う。ただ懸念されるのは、当面自粛、やむを得なく中止・延期が、やがて習い性となって常態化することだ。私事で恐縮だが、実家の墓は愛媛県にあって親戚にお守りいただいている。墓参するにも親戚と連絡を取り、東京の家族と日程調整し、宿を予約してと大事となる。代行やオンラインで済むならどんなに楽だろうかと思わない訳でもない。

要はここでも効率なのだ。しかし先の教育でも宗教でも効率で置き換えられないものがある。かつて青森の松緑神道大和山に赴いた時、新幹線を使って6時間かかったとご挨拶したら、初代教主から昔は汽車で1日2日、その間、思いを寄せてあれを祈らせていただこう、これをお届けしようと思いつつ参拝したのだと強くたしなめられた。

立正佼成会で模範的な会員になるのに何年かかるかと質問をして、一生、いや一生でも無理かもしれないとの回答の前に不明を恥じたこともある。そもそも寝て起きて食べて効率よく済むのなら文化は要らない。教育や宗教のように文化の最たるものは一見無駄に見える何かが必要なのだろう。

最初の話に戻ろう。東工大の受験生向け広報誌のオンライン授業に関するインタビューで「無駄が必要」と述べたら、取材の学生から「なぜ?」という質問が来て、逆に面食らった。宗教もそうだろうが、いかに正確に大量に、そして早く処理するかということ以上に、集う空間やそこで過ごす時間、これらに対する意識の質が重要なのだ。

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