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フランス初の女性イマーム 男女平等イスラーム目指す

東京大准教授 伊達聖伸氏

時事評論2021年5月14日 13時35分

2019年にフランスで初めて女性のイマームとなったカーヒナ・バフルールが、このたびアルバン・ミシェル社から『私のイスラーム、私の自由』を刊行して話題になっている。

1979年パリ生まれの彼女はアルジェリア育ち。父親はカビリア地方のベルベル人でマラブー(イスラームの聖者)の家系に連なるという。母親はフランス人で無神論者。母方の祖父はカトリックで、母方の祖母はポーランド系ユダヤ人だった。三つのアブラハムの宗教と世俗の思想という異質な多様性がカーヒナのなかには流れ込んでいる。

子ども時代はイスラームの文化で育ったが、90年代のアルジェリア内戦を経験してイスラーム主義の政治的台頭を間近で目撃した彼女は、「宗教」からは遠ざかっていたという。アルジェリアで法律を修め、24歳で来仏。父親を亡くし、精神的危機に直面したのが人生のひとつの転機となる。スーフィズムを発見し、「スピリチュアルなイスラーム」を選びとった。

バフルールは人文社会科学のアプローチを用いたイスラーム学をパリ高等研究実習院で学んだ。礼拝の導師であるイマームの性別に関してクルアーンにはまったく規定がないことを知った彼女は、ニューヨークで女性としてイマームを務めたアミーナ・ワドゥードや、コペンハーゲンで女性主導のモスクを設立したシェリン・カンカンに着想を得て、女性も男性も一緒に祈ることのできるファーティマ・モスクを設立した。

女性主導のモスクを作った彼女は、SNSなどでの中傷や脅迫も経験してきた。それでも、イスラームの教えは女性のイマームを禁じていないことを示してきた努力の成果か、モスク設立当初のような嫌がらせは減ってきたという。

アルジェリア内戦で多くの女性がヴェール着用を強制されるのを見てきた彼女にとって、この布切れは忌まわしい過去の思い出と結びつく。彼女自身はヴェールを被らないが、被りたい人の自由は尊重されるべきであると考えている。

彼女は必ずしもフェミニズムを表看板にはしない。フェミニストに敬意を払いつつ、女性としてというより不正義に異議を唱える人間として輪を広げたいと考えているようだ。ファーティマ・モスクは非ムスリムにも門戸を開いている。

現在のフランスでは、ライシテという政教分離原則や男女平等が守るべき共和国の価値とされている。そこには、イスラームはライシテと矛盾する傾向を持つ女性差別的な宗教という含みが見え隠れするが、カーヒナ・バフルールが提唱するのはライシテに適合する男女平等のイスラームである。ちなみに、フランスのマジョリティ宗教であるカトリックは現在でも女性聖職者を認めていないことを言い添えておこう。

モスクの運営は財政的には厳しい面もあるようだが、コロナ禍でのオンライン説教など、活動を工夫している。彼女の見るところ、現代フランスでは自分たちの伝統をよく知りたいと思っている若者たちは多く、合理主義的でリベラルなイスラームには将来性があるという。社会の分断の進行を食い止め、多様な人びとを連帯に向かわせる役割が期待される。

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