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「安全安心」は呪文か 言葉の定義と中身を問う

北海道大教授 櫻井義秀氏

時事評論2021年6月25日 10時26分

この1年半、菅義偉首相ほど「安全安心」を連呼した政治家はいない。新型コロナウイルス対応の施策であるGOTOキャンペーン、3度の緊急事態宣言発出、東京五輪に関して、国内で野党党首やメディアの記者がどのような質問をしようと「安全安心」だといい、6月12日のG7サミットでも「感染対策を万全にし、安全安心な大会を実現する」と述べてきた。

国民や海外のメディアが知りたいのは、そのための具体的な方策やどのような状況をもって安全安心とするかという指標だが、首相は言質を取られないよう詳らかにしない。従前は専門家に諮ることで恣意性や成り行き任せの批判をかわしていたのだが、風向きが変わったようである。

6月3日の参院厚生労働委員会において、尾身茂政府対策分科会会長が、①パンデミック時に五輪をやるのは普通ではない、②感染対策はスタジアム内だけでは完結しないので、規模を縮小し観客の移動をなくすべき、③感染リスクや医療逼迫への評価は専門家の仕事である、と述べた。翌日、田村憲久厚生労働相は、これらの提言を「自主研究」と評し、菅首相は野党による五輪開催にかかる判断基準の諮問を分科会に求めるべきという提案を退けた。

要するに、「安全安心」とは科学的な基準や合理的思考を排した、楽観的な見込みの願望である。政治生命や国威発揚、あるいは特定集団の利害を開催国民や選手の健康より優先していることを覆い隠す呪符が、五輪開催に貼り付けた「安全安心」なのである。

国民の懸念は、フルスペックで開催しようとする政府方針にある。ワクチン接種が高齢者にしか間に合わないなか、国内の大規模な人流によって五輪の最中やその後に感染爆発が生じ、病床逼迫の地域で凄惨な状況が出現するのではないか、日本から変異株が世界中に飛び散ることはないのか、という心配がある。「安全安心」と聞けば聞くほど、心がざわつく。

私の住む札幌市では、6月20日時点で480床あるコロナ患者受入病床は埋まっており、宿泊療養施設が中程度症状の患者用に変わって197人しか受け入れていない。残りは280人の自宅療養者と1170人の施設療養者・調整中の患者である。連日十数人の方が亡くなり、新規感染者は100人をようやく下回るようになった。札幌マラソンテスト大会とGWの人の動きだけでこうなる。

北海道勤医協、北海道労働組合総連合他が五輪を開催できる状況にないとして北海道と札幌市に見直しを求めた。医療は実質的に崩壊しており、地域住民の救える命を削ってまで開催する五輪の大義とは何なのかと問いただした。

北海道と札幌市は2030年の冬季五輪招致を含みに何もこたえない。それでも「食の安全・安心推進協定」をうたう。児童生徒の五輪観戦を求める文部科学省は、「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策」を立案する。「安全安心」の定義と中身を取り戻すべきだ。

許容できないリスクがないことが安全であり、心が落ち着き安んじることが安心である。言葉の原義を今一度かみしめたい。

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