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漫画が描く「カルト」問題 信者の子らも体験テーマに

京都府立大教授 川瀬貴也氏

時事評論2021年11月26日 11時07分

大学内での宗教活動、特にいわゆる「カルト」の勧誘については、これまでも問題視されてきた。当コラムの執筆者の一人である北海道大学の櫻井義秀先生も数多くの著作でカルト問題について言及されているが(『カルト問題と公共性』北海道大学出版会、2014年、等)、私の勤める比較的小規模な大学でも、時々この問題が惹起される。

宗教学者であり、そこそこカルト問題にも詳しいと目される私にも、大学当局や学部長あたりから「この団体はどういうものか、大丈夫なのか?」という問い合わせが届くことがある。この数年は、コロナ禍により宗教活動そのものが低調なおかげ(?)で、そのような「ご下問」はほとんどないが、今回は最近復刻出版されたあるマンガを紹介し、改めて「カルト問題」を考えてみたい。

紹介するのは、樹村みのり「夢の入り口」(『彼らの犯罪』岩波現代文庫、21年、所収)である。樹村氏は社会的なテーマを描くことでも定評のある漫画家だが、この作品は「ユートピア会」という団体から逃れてきたばかりで、精神の均衡を失っている友人を主人公が病院に見舞う、というシーンから始まる。

少し知識のある方なら、この団体のモデルは明らかに「幸福会ヤマギシ会(通称ヤマギシ会)」をモデルにしているということがお判りになるだろう。集団生活とそこで収穫される農産物の販売で有名な団体(農事組合法人)である。当団体は「我々は宗教団体ではない」と自らを規定しているが、創始者山岸巳代蔵の唱える独特の思想(ヤマギシズム)や閉鎖的性格で、社会から孤立する「隔離型」の教団の一つと研究者から見なされてきた。

作品内では、主人公の友人がその「ユートピア会」で受けた1週間の「講習会(ヤマギシ会では、会の理念を車座でたたき込まれる『特別講習研鑽会』と呼ばれるもの)」がいわゆる「マインド・コントロール」に近いものであったことが描写されている。この作品が発表されたのは1993年で、単行本に収録される際にオウム真理教事件についての部分が描き足されている。淡々とした語り口で、却ってこの問題に対する作者の静かな怒りが伝わってくるような作品である。

最近ではこの作品の他、高田かや『カルト村で生まれました。』(文藝春秋、2016年。これもヤマギシ会で生まれ育った著者の体験談)、いしいさや『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(講談社、17年。これは「エホバの証人」の二世信者による作品)をはじめとする、かつての「信者(特に二世信者)」が自身の体験をマンガという形式で表現する著作が多く出版されている。

現在の日本で「信教の自由」が基本的人権であることは論を俟たない。しかし最近このような「告発」マンガや、テレビの特集でも「二世信者」の問題がクローズアップされている。この問題に対する安直な解答はもちろん性急に出せはしない。しかし、私の脳裏には「この世の中のひとりでも不幸な人のいる限り、自分も幸福にはなれないと思う事こそ、本当の人間らしい感情でしょうに」(太宰治「貨幣」)という言葉が響くのである。

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