PR
購読試読
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
お位牌Maker
PR
宗教文化講座 翠雲堂

間違えたくない学生の心理 失敗、試行錯誤から成長を

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

時事評論2022年2月18日 12時19分

卒論・修論シーズンになると、最近の学生・院生は何度も草稿の段階から目を通してくれと添付ファイル付きのメールを送ってくる。加筆修正を求めるコメントを返すと、修正したものが送られてくる。毎週のゼミ指導のほか、昔風に言えば「赤ペン」先生となる。

考えられる要因は三つ。①大学が教育の質を担保すべく指導の実質化を求めること②コロナ禍の2年間で学生同士の横のつながりがなくなり、学生は友達ではなく教員に何でも尋ねるようになったこと③学生が間違いのない論文を書こうと考えていることである。

人文・社会科学の勉強や研究において、正しいテーマや正しい解釈、まして正しい結論などありえない。だから間違いのない論文もありえないのである。素人とプロ、レベルの違い、どれだけ説得的であるかの違いはあれ、それぞれの力量で一生懸命書けばよい。

私は、小学生から高校生まで正答を効率的に導き出すことを学習と心得た若者に、このことを教えるのを大学教師の役割と心得てきた。しかし、大学教育の充実が意図せざる結果を生み出しているようである。

私は大学のハラスメント相談室長を長らくやっており、学生相談室長を兼任していた時期もある。その時も今も、学生に自分でやることの余地を残さない助言や面倒見のよさは学生の成長をうながさないと言い続けてきた。間違ってこそ「勉強」になるし、失敗してなんぼである。この経験と感覚を身につけないまま実社会に入ったら簡単に潰れてしまう。

間違いたくないという学生気質につけこむ就活セミナーがある。自己分析、業界研究、企業研究、エントリー・シート、筆記試験、面接といった就活の要点を講師が指導する就活塾や就活サロンは数多い。内定率○○%をSNSで広告するところから、元塾生の口コミや紹介だけで人を集めるところまでさまざまであり、料金も数万円から数十万円程度まで幅広い。

もちろん大学でも早いところは1年生から各種セミナーを行い、模擬面接まで指導するところも増えた。しかし、学生は同伴者やメンター役のいる民間のセミナーに惹かれる。私の知っている学生で、3年次後半からセミナーに誘われ、3カ月程度の講習(前記の内容に加えプログラミングなど)を1、2度受けた後メンター役にスカウトされ、セミナーのスタッフとして月3万円程度で雇われてイベントの企画・運営や新規の受講生勧誘にかり出される。自分の卒論や就活よりもセミナーに入れ込み、業者から勧誘や契約実績を詰められてメンタルをやられ、留年したものもいる。

1980年代に自己啓発セミナーがはやった。アメリカの人材開発や集団療法を元に「本当の自分」や「本当の人間関係」を発見できるとうたい多くの若者を集めた集団合宿だ。ここでもセミナー中毒者が出た。他人の人格変容を目のあたりにする感動に嗜癖するのである。就活セミナーではメンターとしてケアの役割に充実感を持つ者がいる。

人は間違い、失敗して成長する。その人にふさわしいやり方はその人自身にしかわからない。若者は試行錯誤しながら自分の可能性を試してもらいたい。

ネイションへの埋め込み 時代逆行の「大きな物語」 櫻井義秀氏5月13日

2月24日、ウクライナにロシア軍が北東南から侵攻してから2カ月以上経った。約500万人の女性と子供が西から国外に逃れ、国内では移動できない高齢者をはじめとする約4千万人の…

若い学生たちが目指す未来 共生社会へ変革する力に期待 稲場圭信氏4月22日

この春、『阪大生の宣言文2 今を生きる学生の目指す社会』をアマゾン電子書籍で出版した。 編集ボランティアの学生6人とともに本書の第1回編集会議をした2月24日にロシアがウ…

震災の記憶伝える伝承館 墓地への思いと祈り 弓山達也氏4月8日

コロナ第6波が下火になった2、3月、2年ぶりに福島県浜通りに続けて足を運んだ。延期になっていた浄土宗福島教区青年会の行事、2年間オンラインだった市民対話の未来会議の対面開…

いのちを社会で育てる 内密出産と不妊治療

社説5月20日

戦争の愚かさ 時代遅れの悪質なプライド

社説5月18日

介護用品贈与通じ 支え合いの精神広める

社説5月13日
このエントリーをはてなブックマークに追加