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宗教文化講座 翠雲堂

震災の記憶伝える伝承館 墓地への思いと祈り

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2022年4月8日 12時43分

コロナ第6波が下火になった2、3月、2年ぶりに福島県浜通りに続けて足を運んだ。延期になっていた浄土宗福島教区青年会の行事、2年間オンラインだった市民対話の未来会議の対面開催、なかなか県外から訪問しづらかった東日本大震災の慰霊追悼行事だ。

この2年間で各地にいわゆる震災伝承館ができ、それらを拝観するのも目的の一つだった。いわき震災伝承みらい館、とみおかアーカイブ・ミュージアム、双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館、震災遺構浪江町立請戸小学校などを訪問した。

記録と記憶の保全やその教訓化という理念は共有するものの、展示方法やどこに力点を置くかがやや異なっているようにも思えた。富岡の施設は町の歴史から紐解き、そこに震災を位置づけようとし、請戸小学校は遺構に留まらず、施設を巡ることで当日の子どもたちの生々しい記憶を追体験できる仕組みになっている。

こうした展示を見て改めて思うのは祭りの意義だ。特に印象深かったのは請戸小学校2階廊下に残る子どもたちが作った安波祭をテーマにした大きな卒業制作画。波の前に行き交う御輿と田植え踊りが躍動的に描かれている。教室の中のモニターでは2月の安波祭がいかに重要かを語る婦人が映し出されていた。一昨年の安波祭には大雨が降ったが、天気が悪い方がいいという言い伝えがあり、むしろ雨を吉報ととらえて、4月の9年ぶりの請戸漁港再開を待ったという。

祭りとともに先祖や墓も重要だ。請戸には沿岸に共同墓地があったが、大きな被害を受け、1㌔以上内陸の大平山に7年前に町営墓地が開設された。展示にはこの墓地への思いが綴られ、自分は請戸に帰れないが、墓だけは戻したいという語りが紹介されている。別の人は自分も共同墓地に入り、「死後も請戸の土地を眺めていたい」という。

似たような話は先述の未来会議でも聞いた。楢葉町で家が流された役場職員は、避難解除後、自宅があった場所でソロキャンプを実施。その後、彼は自分・父・祖父の歴史を取り戻すために地蔵堂での活動やどんと焼きを開始したという。地域や先祖の祭りが記憶を運んでいく。

話を請戸に戻そう。先の被害にあった共同墓地跡には巨大な円形の先人の丘が造成され、そこに被災した墓石が眠っている。完成式の3月11日の翌日にお参りしたところ、男性がじっとたたずんでいた。聞くと地元の水産加工工場の経営者で、彼としばらくお話しする機会を得た。震災時、請戸小学校にいたお孫さんは裸足で凍り付いた田んぼを走って大平山まで避難し、そこで姉から靴を片方だけもらって暖を分かち合ったという。続けて男性は避難を決断した校長、たまたま通りかかって役場まで子どもたちを乗せてくれたトラックについて「全てが奇跡だ」と語った。

先人の丘の一角には同じく被災した地蔵や石碑類も祀られている。男性は長時間かけて、一つひとつ石碑の表裏を見つめ、文字を読もうとしていた。彼の中では孫の未来と先祖の記憶・記録が、墓や祈りを通して、はっきりとつながっているに違いない。

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