若い学生たちが目指す未来 共生社会へ変革する力に期待
大阪大教授 稲場圭信氏
この春、『阪大生の宣言文2 今を生きる学生の目指す社会』をアマゾン電子書籍で出版した。
編集ボランティアの学生6人とともに本書の第1回編集会議をした2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。第3回編集会議の2日後の3月16日には、福島県沖を震源とするマグニチュード7・4の地震が発生した。そして、2年以上が経過しても新型コロナウイルス感染症への対応は続いている。はたして社会の展望を明るくみることはできるだろうか。
大阪大学の主に人間科学部の2年生を対象とした授業「共生社会論」は、毎年10月からの後期に始まる。利他主義に関する諸理論を学んだのち、社会における利他主義や宗教の社会貢献の各トピックを紹介し、共生社会のあり方やその構築方法も探求することが目的だ。
座学に加えて、医療関係の会社経営者や看護師による地域包括ケアに関する講演やディスカッションも取り入れている。
さらに、「コミュニケーションテクノロジーで人類の孤独を解消する」オリィ研究所の吉藤健太朗代表が開発した分身ロボットOriHime(オリヒメ)を教室に設置し、島根県と東京都に在住の重度肢体不自由者による遠隔操作で講演や対話を行った。人生の終わりを考える「もしバナゲーム」を使った「人生会議」(アドバンス・ケア・ プランニング)も実施した。
最終回は、受講する学生全員が発表する「個人ステイトメント」を行う。パワーポイント1枚に作成した以下のような「個人ステイトメント」をそれぞれが1分で発表するものだ。
「目指したい社会 ○○○○な社会を目指したい」
「現在の社会はどのようであるのか(現状認識)」
「目指す社会の構築にむけて自分はどう取り組むか」
「個人ステイトメント」の取り組みは2020年度に初めて実施し、了解を得られた学生の個人ステイトメントと感想をまとめ、21年4月に『阪大生の宣言文』を刊行した。
『阪大生の宣言文2』は、2回目、21年度の個人ステイトメントをまとめたものである。
「失敗にもっと寛容な社会」
「違いを受け入れる社会」
「普通に縛られない社会」
「ボランティアと仕事を両立できる社会」
「フェアがあたりまえな社会」
「誰もが気軽に自己表現できる社会」
「障害が選択肢を制限しないような社会」
「信頼を大事にできる社会」など、学生たちの目指す社会は多様だ。
利他的な社会、共生社会への道のりは決して容易ではない。それでも、学生たちの宣言文で先を明るくみることができる。
「利他の心」(坂村真民)
どんないい果物でも/熟さなければ/食べられない/それと同じく/どんな偉い人でも/利他の心がなければ/本ものとは言えない
学生の皆は多くを学んでいる。個人ステイトメントを発表した皆の今後が楽しみだ。若い学生の社会を変革する力に期待している。