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宗教文化講座 翠雲堂

ネイションへの埋め込み 時代逆行の「大きな物語」

北海道大教授 櫻井義秀氏

時事評論2022年5月13日 11時30分

2月24日、ウクライナにロシア軍が北東南から侵攻してから2カ月以上経った。約500万人の女性と子供が西から国外に逃れ、国内では移動できない高齢者をはじめとする約4千万人の人々を守るために男性が軍隊と共に闘っている。首都キーウは防衛され、ロシア軍はロシア国境の東部工業地帯の占領に向けて部隊を転進させたが、戦況は刻々と変化している。

東スラブ民族としてのウクライナは、キエフ大公国の末裔でありながら、1991年にソ連が崩壊し中立国として独立するまで、ロシアやポーランドなどに支配されてきた。

民族的にはロシアと東欧の諸民族との境界、東西冷戦体制下から現代にかけてはワルシャワ条約機構(解体後はロシアと周辺国)とNATO諸国との境界に位置するために難しいバランスを取ってきた。

しかし、2013年にウクライナの民族性と西側との連帯を重視する尊厳革命が起こり、ロシアはロシア系住民保護を名目にクリミア半島を占領し、東部地域で親露派の反政府軍とウクライナ政府軍との紛争に介入し続けてきたのである。今回の侵攻は総仕上げだった。

国連ほか多くの国々が国家の主権と市民の安全確保を主張してロシアの暴虐を批判し、また、ウクライナに武器や避難民へ支援を続けているが、戦略核兵器の使用をちらつかせるロシアとは直接戦うことはできない。

日本は旗幟を鮮明にしたので、北方領土交渉の頓挫のみならず、北海道は日本海やオホーツク海を挟みながらもロシアとの境域として不測の事態に巻き込まれる可能性がゼロではなくなった。

国際刑事裁判所が捜査中のロシア軍による戦争犯罪を知って慄然とし、平穏に暮らせるこちら側との落差に申し訳なさも感じながら、民族や国家という大きな物語に人々のいのちや生活が翻弄される時代に入ったことを実感した。

英国の現代社会学者であるアンソニー・ギデンズは、人々がローカルな時空間(土地や身分)から解放されて、共通の関心を共にする人々同士が地域を超えて交流できること(脱埋め込み)をモダニティの特質と考えた。

グローバル化した資本主義世界やインターネット空間において、国家の統制や価値観の押しつけなど気にもかけないコスモポリタン的市民が増えたことは事実である。AIが人間や社会のあり方そのものを変える未来社会の姿まで思い描かれた。

しかしながら、「偉大な民族」の亡霊は安全保障理事会の五つの常任理事国に温存された。習近平国家主席は中華民族の夢を追い、プーチン大統領はロシアを守るために周辺地域の人々が「脱埋め込み」から逃れることを許さない。その周囲にも大きな物語を国家、民族、宗教の次元で強いる権威主義国家が相当数ある。

ネイションによることなく平和と安寧をもたらす身の丈に合った物語を私たちは生み出せるだろうか。モダニティに問題は多いが、人々は自由になれた。他者に寛容と慈愛で対することもできる。時代を逆行させてはならない。

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