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グルノーブルのブルキニ 自由か抑圧か二つのライシテ

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2022年6月1日 09時40分

5月16日、フランス南東部アルプス山脈の麓に位置するグルノーブルの市議会は、市営プールの内規を改正してブルキニの着用を認めた。「ブルキニ」とは肌の露出を抑えたいムスリム女性用の水着。「ブルカ」と「ビキニ」の組み合わせからなる語で、足から頭髪までを覆うが、ブルカとは異なり着用する女性の顔は見える。今回の決定は左派連合が多数派の市議会を環境政党EELVのエリック・ピオル市長が率いたものだが、反対票を投じた左派もいて僅差だった。

フランスのブルキニ論争はヴェール論争と地続きだ。2015年にパリで起きた二つのテロ事件の後、「イスラーム過激派」への警戒が高まるなか、16年夏には南仏の海岸でブルキニ着用を条例で禁止する自治体が相次いだ。国務院は条例を無効としたが、多くの自治体は衛生上の理由という名目で公営プールでのブルキニ着用を禁じてきた。

グルノーブルでは18年に結成された「市民連合」が、ブルキニを含むあらゆるタイプの水着の着用許可を求めて草の根運動を続けてきた。翌年夏にブルキニを着用したムスリム女性が市営プールに入場すると、メディアも大々的に報じて物議を醸した。ピオルは当時から市長で、政府がブルキニの扱いの明確な指針を出すよう求めたが、政府側は内規の遵守が重要で法制化の必要はないとした。

「市民連合」はトラブルを回避したい市当局と緊張状態に陥ったが、署名を集めて21年11月に市長と面会。ピオルは「プールをすべての女性に開放してほしい」との要求に耳を傾け、今年4月にはマクロン大統領に「女性が身体を覆うよう強制される場所ではどこでも闘わなければならないのと同様に、女性が身体を露出するよう強制される場所ではどこでも闘わなければならない」と書き送った。「家父長制は衣服にではなく押しつけにある」

今回の決定でピオル市長はムスリムに媚びていると指弾されて孤立している。右派の元市長はピオルの責任は重大と問題視し、グルノーブルがあるイゼール県の知事は地方行政裁判所に訴えると表明。同裁判所は25日、認可措置の執行を一時停止した。オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地域圏の議長ローラン・ヴォキエはグルノーブルへの補助金を即刻停止するとツイートし、右派共和党の有力政治家エリック・シオッティはライシテの名においてブルキニを禁じる法案を準備すると息巻いている。

ブルキニ論争は公共空間から宗教的標章を排斥するライシテ対ムスリムの権利の対立のように見える。だが実際には、二つのライシテと女性の権利の考えが衝突していると見るべきである。ライシテ強硬派の目にブルキニはイスラーム過激派と女性蔑視の象徴と映るが、ピオル市長の考えではライシテは宗教的自由も保障するもので女性にはプールで自由な格好をさせるべきである。ライシテ強硬派は政治的イスラームの容認につながると考えるが、ピオルも政治的イスラームと闘う姿勢は共有する。

政局にも絡み、報道も加熱しがちなブルキニ論争。分断が可視化されるのもよくないが、一律的な規則の法制化も問題の解決にはなりえないだろう。

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