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人工妊娠中絶で揺れる米国 宗教的次元に誘導する問題

京都府立大教授 川瀬貴也氏

時事評論2022年6月15日 09時12分

最近気になる動きがある。それは、アメリカ合衆国における「人工妊娠中絶」をめぐる動きである。最近の報道によると、オクラホマ州のケビン・スティット知事(共和党)は5月19日、受精の瞬間からの人工妊娠中絶をほぼ全面的に禁止する法案に署名して成立させた(同州では複数の中絶禁止に関する州法が立て続けに成立している)。

これは市民に対し、中絶手術に携わった医師や看護師、そして中絶を「手助け」した人を訴えるのを認めるというもの(つまり州当局ではなく個人が告発するというやり方)である。この州法の可決を受け、中絶を「女性の権利」とする民主党政権のホワイトハウスからは反論が提起された。

同法について副大統領のカマラ・ハリス氏はツイッターで「今日、オクラホマで受精の瞬間から中絶を事実上禁止する法案が可決されました。過激な議員による女性へのあからさまな攻撃です。これまでになく、地方、州、連邦レベルで、中絶擁護派の議員たちを選ぶことが急務になっています」と述べた。

このような動きは局地的なものではなく、保守的な信仰が強く、共和党の知事が率いる州では、中絶を制限する州法がミシシッピ州、アリゾナ州、テキサス州、アイダホ州などでこの数年にわたり相次いで制定されている。

そもそもアメリカにおいては人工中絶に関する長い論争の歴史があるが、その画期となったのが1973年に連邦最高裁で判決が下された「ロー対ウェイド裁判」である。この裁判は母体保護以外の中絶を禁止したテキサス州法の違憲性をめぐるもので、判決は中絶擁護派にも反対派にも大きな影響を与えることとなった。73年1月の判決は、女性が中絶を選ぶ権利を憲法が保障したプライヴァシー権として認めるというものであった。これにより、それまでにあった合衆国各州の反堕胎法は一挙に違憲となった。

この判決は、女性に生殖上の自己決定権を認めた点で画期的なものだった。しかしこれは中絶をめぐる問題の解決というよりは、現在まで続く論争の発端となったものでもあった。ロー判決に対して危機感を募らせた中絶反対派は、反対運動を却って燃え上がらせ、団結することになり、以降大統領選の争点ともなっていく。

近年のアメリカのいくつかの州における「反動」には、数十年にも及ぶ歴史があり、最終目標はこの過去の判例を覆すことである。

最近の日本においても、経口中絶薬の認可や、使用条件(配偶者の同意が必要か、など)をめぐっての論争が存在する。アメリカのように分かりやすい宗教的な態度表明(例えば保守的な信仰の人はプロライフ、リベラルな人はプロチョイス)が少ない日本におけるこの論争の原因はどこにあるのか、簡単に断定はできないが、「生命」をめぐる問題は、信仰の有無を問わず「宗教的」な次元に人を誘導するものだろう。

その意味で、いまアメリカで起きている問題も決して「他人事」「対岸の火事」ではなかろう。同性婚などの問題を含めて、日本が今後どういう方向に向かうのかを見つめていたい、と思う。

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