PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
2024宗教文化講座

身体を通して学ぶ宗教 法螺貝の練習を通じて知る

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2023年2月15日 14時45分

私事で恐縮だが、昨年秋から法螺貝の練習をしている。きっかけは7月に学生を連れて高尾山に行った時のことだ。偶然知り合った行者が工学博士で、東工大生が滝行をしているのを面白く思ったのか、山中に分け入る私たちを、姿が見えなくなるまで法螺貝で見送ってくれた。筆者たちは「六根清浄」のかけ声で応えたが、この時、筆者が法螺貝奉奏できたら、ずいぶん格好よかろうと思った。

同月、コロナに罹り、家に籠もるなら何かやろうと法螺貝を購入。しかし吹いても音は出ず、しばらく放っておいた。ところが10月の高尾山の夜間登拝で先の工学行者と再会し、「良い先生がいるから」ということで、講習を受けに大峯山麓に行くこととなった。

終日講習会で参加者18人。どんな人が集まるのかと思ったら、大工、園芸師、農家、自称山伏など、ユニークなメンバーで、初対面ながら最初から法螺貝談義で盛り上がった。講習が始まって、すぐに気がついたのが、吹き方のテクニック伝授の合間に伝えられる精神論だ。例えば自分の身体は自分の意のままにならないとか、貝を吹くのではなく、貝に合わせるのだとか。筆者の「格好よかろう」も、「うまくなりたいと思っているうちは上達しない」とたしなめられた。

言葉だけ伝えると、文字通り精神論なのだが、実際、思うように吹けない、身体が言うことをきかない体験の最中に聞くので、言葉が自然と入ってくる。身体の気づきによる精神の変化、身の処し方といってもいい。講習は衆人環視の中での一対一の指導で、逃げ隠れできず、言葉が自分事として受け止められる。

似たようなことを20年ほど前に、数年間、御会式の講の参与観察で経験したのを思い出した。御会式の準備は数日かかる万燈作り、それを奉納する小屋の設置、太鼓の練習、食事の準備などからなる。私の加入していた講は鳶職をはじめとする職人や地元小売店や営業所の経営者が多く、手に職があるとはこういうことかと目を見張る動きをメンバーはする。筆者は最初、鳶の手伝いをしたが、資材運びもままならず、すぐにティッシュで花を作る万燈作りに回された。

ここでも目にしたのが、身体の使い方や気づきと精神の変化の身の処し方だ。太鼓の叩き方はもちろん、弁当の置き方、食べ方を通して子どもややんちゃな若者が指導される。毎年の行事とはいえ、忘れていることも多く、うまく動かない身体が、だんだん記憶や勘を取り戻し、こうした指導が抵抗なく入ってくる。「鉢洗い」(器洗い=直会)を「鉢」に引っかけて、「ねじり鉢巻きで額を寄せて反省するんだ」と講元に言われたが、事実宴会はそんな感じだった。

法螺貝奉奏も御会式も宗教儀式だが、筆者がその末端で参加した講習会や講で、宗教の言葉が語られることはほぼなかった。しかし、そこには身体を通して学ぶという身の処し方が生きている。修行、稽古、修養など、宗教そのもの、あるいは宗教に関わる領域に広く通底する身体と精神の変化やメカニズムを解く鍵があるのではないかと、今日も法螺貝の練習のため勤務先の雑木林に向かっている。

加害者家族と宗教 被害・加害双方へ関わり方は 川瀬貴也氏2月28日

先日、高橋徹『「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力』(現代書館、2023)という書籍を読んだ。これは、2018年に死刑になった、元オウム真理教信者の井上嘉浩・元死刑囚の父…

「奥深くて開けている」能登へ 西谷啓治の思想と震災復興の方向 伊達聖伸氏2月16日

元日に起きた能登半島地震から1カ月が経った。石川県内では1月末までに238人の死亡が確認されており、死因は圧死が最多ながら、凍死も30人以上で、寒空の下で救援を待っていた…

宗教界もビジョン2100を 挑戦する宗教者の出現期待 櫻井義秀氏1月24日

自然災害がいつどこで起きてもおかしくはない時代だ。能登半島の震災から2週間余が過ぎ、亡くなられた方のご冥福と被災者の生活復興を願う毎日である。 過疎地域に暮らす多くの人は…

AI技術暴走の危惧 宗教界からの倫理提唱(2月28日付)

社説3月1日

瞬発力ある災害支援 日常からの行いが奏効(2月23日付)

社説2月28日

過疎地置き去りの悲劇 東京一極集中の裏返しだ(2月21日付)

社説2月22日
このエントリーをはてなブックマークに追加